「フランス印象派の陶磁器」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」
4/5~6/22



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」を見て来ました。

19世紀後半、フランスにおける印象派の時代。絵画と同様、陶磁器の世界においても新たなる試み、言わば変革が為された。しかしながらその内容は印象派絵画ほど良く知られていないかもしれません。

そこを突くのが本展です。フランス印象派時代の陶磁器の変遷を見る。出品は155点です。リモージュ陶器で知られるアビランド家のコレクションを紹介します。

さてともかくもサブタイトルにもあるようにジャポニスムの影響が色濃く感じられる展覧会。ともすると印象派云々よりもジャポニスムそのものの方が主役をはっている。そんな感覚を受けるかもしれません。


「ルソー・シリーズ 雄鶏に熊蜂図皿」クレイユ・エ・モントロー陶器工場 フェリックス・ブラックモン 1867年

というのも冒頭からそれこそ江戸花鳥画の世界。ルソー・シリーズです。デザインは第1回印象派展にも出品した画家ブラックモン。雄鶏に赤魚に車海老に蜻蛉。それらが青い縁の白皿に描かれている。元ネタの一つは北斎漫画です。言うまでもなくブラックモンはかねてより日本の浮世絵に強い関心を抱き、それを仲間の画家にも伝えた人物。制作はパリ万博のあった1867年。つまりはジャポニスムが席巻した年です。そこで大変な好評を得ます。


「ルソー・シリーズ」4人用カジュアルセッティング

そして会場内にはご覧のようにルソーシリーズによる4人用のテーブルコーディネートもある。制作は木村ふみ氏。2000年の九州・沖縄サミットでの夕食会のテーブル装飾を企画された方とか。実は本展ではこうした木村氏によるコーディネートが計3つ用意されています。

しかもテーブルセットは撮影が可能です。(但し立ち位置が限定されています。)もちろん陶磁器は当時のもの。雰囲気を楽しむのに有用ではないでしょうか。

さて今回のコレクションの主でもあるアビランド家、元々はアメリカ人です。当主ダヴィットがフランスにやって来たのは1842年。後にリモージュの地に装飾工房を設立し、磁器工場まで建設する。二人の息子がダヴィットを相続した1880年頃には早くもヨーロッパ最大の磁器製作所になっていたそうです。

その一人、シャルル・アビランドがブラックモンと出会ったのは1870年頃。万博の後でしょうか。パリ西郊のオートゥイユ工房の監督をつとめる。「散る薔薇」に「花とリボン」シリーズ。今度は可憐な花の連作。それをルソー・シリーズ同様、余白を大胆に活かして描いていく。ちなみに当時は中心と縁取りに模様があるのが一般的だったとか。ブラックモンの試みは大変に革新的でもあったそうです。


「海草・シリーズ」6人用のティータイムセッティング

テーブルセッティングは「海草」と「パリの花」シリーズ。前者は1874年で後者は1883年。「パリの花」ではガラス器との取り合わせも目を引く。展示のハイライトとも言えるかもしれません。


「バルボティーヌ 薔薇 クレマチス図花瓶」 アビランド社 アンリ・ランベール 1876年

後半はまたガラリと雰囲気が変わります。「バルボティーヌ」です。テラコッタの上からスリップ(泥しょう)をかけて描く技術。もはや絵画的とも呼べる展開。絵具の画肌さながらに凹凸のある器の表面。まさしく印象派の陶磁器です。時にナビ派やゴッホを思わせる展開もある。色味は強く、ともすれば模様も派手。過剰とするのは言い過ぎでしょうか。器を覆い尽くす草花の乱舞。生命感には溢れています。


「バルボティーヌ 黒地金彩花鳥図花瓶」 アビランド社・オートゥイユ工房 シャルル・ミドゥー 1876-83年

漆工芸にインスピレーションを受けたのでしょうか。黒地に金で模様を描いた「黒地金彩花図水注」、ひょっとすると遠目からでは漆塗りの器に見えないこともない。泥しょうに金属酸化物を混ぜて独特の質感を生む。ここでも日本の影響を見ることが出来ます。

ラストはせっ(火へんに石)器からチャイニーズ・レッドへの展開です。半磁器とも呼ばれるせっ器。さも鉄器でも前にするような印象さえある。素朴でかつ無骨。これまでの可憐な磁器からすると随分と趣向が変化したものです。


「彫文秋景図大皿」 アビランド社・オートゥイユ工房 フェリックス・ブラックモン 1874年

チャイニーズ・レッドは銅紅釉の陶磁器。中国由来のもの。フランスでは「牛の血の色」と言われているそうですが、確かにワインレッドとは少し違う。背の高い壺に流し込まれた釉薬。赤い花の蕾のようにも見え、また抽象世界を切り開いたようにも思える。1885年頃の作品だそうです。


「マントからジョワジ=ル=ロワへの道」 アルフレッド・シスレー 1872年

なお会場の随所には陶磁器と同時代、印象派の絵画も10点ほど展示されています。所蔵は同ミュージアムや吉野石膏、それに東京富士美術館のコレクション。画家ではルノワールにコロー、そしてシスレーも2点出ている。なかなかの粒ぞろいでした。


「パリの花・シリーズ」 8人用のフォーマルセッティング

手狭な汐留のスペースではありますが、出品数も多く、章立て、キャプションなども充実。例えば冒頭のルソー・シリーズでは陶磁器のデザインに浮世絵のどの図柄を取り入れたのか。その辺についての解説もあります。総じて丁寧な作りです。追っかけていくと時間がかかりました。

6月22日まで開催されています。

「フランス印象派の陶磁器 1866-1886ージャポニスムの成熟」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:4月5日(土)~6月22日(日)
休館:水曜日
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生200円、小学生以下無料。
 *65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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