「杉浦非水 時代をひらくデザイン」 たばこと塩の博物館

たばこと塩の博物館
「杉浦非水 時代をひらくデザイン」
2021/9/11~11/14



たばこと塩の博物館で開催中の「杉浦非水 時代をひらくデザイン」を見てきました。

1876年に生まれた杉浦非水は、三越呉服店の図案部初代主任を務めると、同店のPR表紙などのデザインを手がけただけでなく、様々な企業のポスターを制作しては、日本のモダンデザインを牽引しました。

その非水の業績を紹介するのが「杉浦非水 時代をひらくデザイン」で、会場にはポスター、装丁、雑誌表紙からパッケージデザイン、それに図案集など約300点の作品と資料が展示されていました。*前後期で展示替えあり。

まず冒頭には若き非水が描いた画帖や、美術学校の卒業制作である「孔雀」といった日本画が展示されていて、幼少期から絵が好きだったされる非水の画才を伺うことができました。非水は東京美術学校にて日本画を学ぶものの、黒田清輝がもたらしたアール・ヌーヴォー様式の装飾資料に魅せられ、図案家への道を歩むようになりました。

非水は若い頃から写生への強いこだわりを見せていて、例えば島根にて短い教員生活をしていた時期も、同地の風景などを画帖に描きました。この写生こそが、のちにデザイナーとして花開いた非水の活動の原点かもしれません。


1908年に三越呉服店の嘱託として勤めた非水は、1910年に新設された図案部の初代主任に就任すると、実に1934年までの27年間にわたって同店のポスターや雑誌のデザインを担いました。そしてそれらは大変な人気を博し、「三越の非水か、非水の三越か」と称されるほどになりました。また三越以外の雑誌や書籍の装丁も手がけ、アール・ヌーヴォーやセセッションといった様式を取り込みつつ、写生を融合した独自のデザインを確立しました。

非水が描いた植物や鳥などの写生帖や図案集も見どころといえるかもしれません。そのうち「非水百花譜」とは、非水が描いた100種類の花卉画を多色摺木版画として仕立てた作品で、まるで図鑑と見間違うほどに植物が精緻に描かれていました。また実際にも写真図版を付した博物学的解説も記され、芸術版画と植物図譜の両面を取り込んだような構成になっていました。ここにも非水の写生に対する強い関心が表れているのではないでしょうか。



1922年に46歳にしてヨーロッパへと出かけた非水は、フランスを中心にドイツやイタリアなどを巡ると、ポスターを収集するなどして同地の最先端のデザインに触れました。そして帰国後に制作へと反映され、和洋混合の優美なスタイルから大胆でかつシャープなデザインへと変化しました。それらは直線を多用した「新宿三越落成」のポスターや、奥行きを用いてダイナミックな構図を築いた「東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通」などに見て取れました。

図案を後進に伝えるべく活動した教育者としての一面も重要ではなかったでしょうか。非水は1925年に日本初の図案研究団体「七人社」を立ち上げると、1935年に多摩帝国美術大学の新設に力を注ぎ、初代校長兼図案科主任教授に就任しました。

この他にも歌人であった妻の翠子との合作や、スケッチともに多く残した写真、また収集した美術工芸品や玩具なども紹介されていて、非水の幅広い活動を知ることができました。


杉浦非水がデザインしたパッケージ *たばこと塩の博物館常設展示室にて撮影。企画展示室内は撮影できません。

手狭なスペースながらも作品と資料は大変に充実していて、想像以上に見応えがありました。2019年にも東京国立近代美術館にて「イメージコレクター・杉浦非水展」が開かれましたが、このスケールでの非水の回顧展は当面は望めないかもしれません。


最後に展示替えの情報です。前期と後期にて一部の作品が入れ替わります。

「杉浦非水 時代をひらくデザイン」
前期:9月11日(土)〜10月10日(日)
後期:10月12日(火)〜11月14日(日)

11月14日まで開催されています。なお東京展を終えると、三重県立美術館(11月23日~2022年1月30日)と福岡県立美術館(2022年4月15日~6月12日)へと巡回します。おすすめします。

「杉浦非水 時代をひらくデザイン」@hisui_koushiki) たばこと塩の博物館@tabashio_museum
会期:2021年9月11日(土)~11月14日(日)
休館:月曜日。但し9月20日は開館し、21日は休館。
時間:11:00~17:00。*入館は16時半まで。
料金:一般・大人100円、小・中・高校生50円。
住所:墨田区横川1-16-3
交通:東武スカイツリーラインとうきょうスカイツリー駅より徒歩8分。都営浅草線本所吾妻橋駅より徒歩10分。東京メトロ半蔵門線・都営浅草線・京成線・東武スカイツリーライン押上駅より徒歩12分。
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