都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」 SOMPO美術館
SOMPO美術館
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」
2021/10/2~12/26
SOMPO美術館で開催中の「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」のプレスプレビューに参加してきました。
大正から昭和にかけて活動した川瀬巴水は、全国各地を旅しながら風景を描き、情緒豊かな木版画の作品を数多く残しました。
その巴水の画業を紹介するのが「旅と郷愁の風景」で、会場には初期から晩年までの木版画はもとより、写生帖や版木、また生前の巴水の制作風景を捉えた写真や映像などの資料が展示されていました。
春のあたご山『東京十二題』より 1921(大正10)年
すでに良く知られた人気の版画家ゆえに、過去にも度々展覧会が開かれてきましたが、まず今回の特徴としては巴水の人生を新版画運動を推進した渡邊庄三郎とともに辿っていることでした。
実際に巴水は渡邊以外の版元とも作品を制作しましたが、基本的に渡邊との仕事を追う回顧展といえるかもしれません。
新版画運動とは、渡邉版画店の主人であった渡邉庄三郎が、衰退していた江戸時代以来の伝統的な木版技術の復興を図るべく、版元、絵師、彫師、摺師が共同で芸術性を第一とする版画を世に出そうとしたもので、巴水は伊東深水や橋口五葉らとともに加わり、新版画を制作していきました。
芝増上寺『東京二十景』より 1925(大正14)年
2つ目の特徴としては巴水の描いた版画連作を可能な限り一括して展示していることで、代表的な「旅みやげ第一集」や「東京十二ヶ月」、それに「東京二十景」をまとめて楽しむことができました。
日本橋(夜明)『東海道風景選集』より 1940(昭和14)年 右は2020年撮影の日本橋
また「旅みやげ第三集」や「東海道風景選集」などの一部の作品では、巴水の版画と現代の写真が隣り合わせに並んでいて、例えば首都高の高架橋が存在しない「日本橋」など、過去と現在で変化した光景を見比べることも可能でした。
「野火止平林寺」木版畫順序摺(10枚セット) 1952(昭和27)年
3つ目は版木や順序摺などの制作プロセスが分かる資料が公開されていることで、中でも「野火止平林寺」では、摺りの工程を記録した10枚のセットが完成品を含めて並んでいました。
「野火止平林寺」木版畫順序摺10枚(完成)と完成した作品を見る川瀬巴水(1952年)
「野火止平林寺」における実際の摺りの回数は約30回とされていて、全てを再現したわけではないものの、制作工程を垣間見る興味深い資料ではないでしょうか。完成品を手に取りながら笑みを浮かべる巴水の様子も印象に残りました。
「スティーブ・ジョブズと巴水」から
最後のポイントは、巴水の作品を収集していたことで知られるアップル・コンピューターの共同創業者、スティーブ・ジョブスのコレクションと同じ作品が展示されていることでした。
「髪梳ける女」 絵師:橋口五葉 1920(大正9)年
ジョブスは20代後半の時に来日した際、巴水の作品を扱う東京の画廊を訪ねていて、そこで自ら作品を購入しました。少なくとも2003年までにジョブズは新版画を43点購入し、そのうち25点が巴水だったと伝えられています。
またジョブスは1984年、マッキントッシュの製品を公開した際、橋口五葉の「紙梳ける女」の画像を使用していて、当時の様子を伝えるコンピューター専門誌などの資料も出ていました。
ジョブズと新版画の関係は、近年、NHKの番組でも取り上げられて注目を集めましたが、改めて知る良い機会といえるかもしれません。
「平泉金色堂」 1957(昭和32)年
最後に展示替えの情報です。約280点の出品作のうち、会期中に前期と後期にて一部の作品が入れ替わります。
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」出品リスト(PDF)
【前期】10月2日(土)~11月14日(日)
【後期】11月17日(水)~12月26日(日)
若狭久出の濱『旅みやげ第一集』より 1920(大正9)年
「東海道風景選集」と「日本風景集東日本篇」、及び「新東京百景」や「朝鮮八景」は前期のみの出品、また「旅みやげ第二集」や「日本風景選集」は後期のみに出品されます。
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」会場風景
会期中、3階展示室のみ撮影が可能です。(本エントリの写真は内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。)
なおWEBメディア「イロハニアート」にても本展覧会の見どころをご紹介しました。
「旅情詩人」と呼ばれた版画家、川瀬巴水の人生をたどる。『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』展レポート(イロハニアート)
12月26日まで開催されています。
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」 SOMPO美術館(@sompomuseum)
会期:2021年10月2日(土)~12月26日(日)
休館:月曜日。但し祝日・振替休日の場合は開館、11月16日(火)。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学生1000円、高校生以下無料。※オンラインチケット観覧料
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
注)写真は報道内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」
2021/10/2~12/26
SOMPO美術館で開催中の「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」のプレスプレビューに参加してきました。
大正から昭和にかけて活動した川瀬巴水は、全国各地を旅しながら風景を描き、情緒豊かな木版画の作品を数多く残しました。
その巴水の画業を紹介するのが「旅と郷愁の風景」で、会場には初期から晩年までの木版画はもとより、写生帖や版木、また生前の巴水の制作風景を捉えた写真や映像などの資料が展示されていました。
春のあたご山『東京十二題』より 1921(大正10)年
すでに良く知られた人気の版画家ゆえに、過去にも度々展覧会が開かれてきましたが、まず今回の特徴としては巴水の人生を新版画運動を推進した渡邊庄三郎とともに辿っていることでした。
実際に巴水は渡邊以外の版元とも作品を制作しましたが、基本的に渡邊との仕事を追う回顧展といえるかもしれません。
新版画運動とは、渡邉版画店の主人であった渡邉庄三郎が、衰退していた江戸時代以来の伝統的な木版技術の復興を図るべく、版元、絵師、彫師、摺師が共同で芸術性を第一とする版画を世に出そうとしたもので、巴水は伊東深水や橋口五葉らとともに加わり、新版画を制作していきました。
芝増上寺『東京二十景』より 1925(大正14)年
2つ目の特徴としては巴水の描いた版画連作を可能な限り一括して展示していることで、代表的な「旅みやげ第一集」や「東京十二ヶ月」、それに「東京二十景」をまとめて楽しむことができました。
日本橋(夜明)『東海道風景選集』より 1940(昭和14)年 右は2020年撮影の日本橋
また「旅みやげ第三集」や「東海道風景選集」などの一部の作品では、巴水の版画と現代の写真が隣り合わせに並んでいて、例えば首都高の高架橋が存在しない「日本橋」など、過去と現在で変化した光景を見比べることも可能でした。
「野火止平林寺」木版畫順序摺(10枚セット) 1952(昭和27)年
3つ目は版木や順序摺などの制作プロセスが分かる資料が公開されていることで、中でも「野火止平林寺」では、摺りの工程を記録した10枚のセットが完成品を含めて並んでいました。
「野火止平林寺」木版畫順序摺10枚(完成)と完成した作品を見る川瀬巴水(1952年)
「野火止平林寺」における実際の摺りの回数は約30回とされていて、全てを再現したわけではないものの、制作工程を垣間見る興味深い資料ではないでしょうか。完成品を手に取りながら笑みを浮かべる巴水の様子も印象に残りました。
「スティーブ・ジョブズと巴水」から
最後のポイントは、巴水の作品を収集していたことで知られるアップル・コンピューターの共同創業者、スティーブ・ジョブスのコレクションと同じ作品が展示されていることでした。
「髪梳ける女」 絵師:橋口五葉 1920(大正9)年
ジョブスは20代後半の時に来日した際、巴水の作品を扱う東京の画廊を訪ねていて、そこで自ら作品を購入しました。少なくとも2003年までにジョブズは新版画を43点購入し、そのうち25点が巴水だったと伝えられています。
またジョブスは1984年、マッキントッシュの製品を公開した際、橋口五葉の「紙梳ける女」の画像を使用していて、当時の様子を伝えるコンピューター専門誌などの資料も出ていました。
ジョブズと新版画の関係は、近年、NHKの番組でも取り上げられて注目を集めましたが、改めて知る良い機会といえるかもしれません。
「平泉金色堂」 1957(昭和32)年
最後に展示替えの情報です。約280点の出品作のうち、会期中に前期と後期にて一部の作品が入れ替わります。
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」出品リスト(PDF)
【前期】10月2日(土)~11月14日(日)
【後期】11月17日(水)~12月26日(日)
若狭久出の濱『旅みやげ第一集』より 1920(大正9)年
「東海道風景選集」と「日本風景集東日本篇」、及び「新東京百景」や「朝鮮八景」は前期のみの出品、また「旅みやげ第二集」や「日本風景選集」は後期のみに出品されます。
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」会場風景
会期中、3階展示室のみ撮影が可能です。(本エントリの写真は内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。)
なおWEBメディア「イロハニアート」にても本展覧会の見どころをご紹介しました。
「旅情詩人」と呼ばれた版画家、川瀬巴水の人生をたどる。『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』展レポート(イロハニアート)
大正から昭和にかけて活躍した版画家、川瀬巴水(かわせ はすい 1883〜1957年)。この記事では、新宿のSOMPO美術館にて行われている『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』展を紹介しています。#川瀬巴水 #SOMPO美術館 https://t.co/kYaiQG6mtf
— イロハニアート (@irohani_art) October 27, 2021
12月26日まで開催されています。
「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」 SOMPO美術館(@sompomuseum)
会期:2021年10月2日(土)~12月26日(日)
休館:月曜日。但し祝日・振替休日の場合は開館、11月16日(火)。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学生1000円、高校生以下無料。※オンラインチケット観覧料
住所:新宿区西新宿1-26-1
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
注)写真は報道内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
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