都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」 水戸芸術館
水戸芸術館 現代美術ギャラリー
「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」
2021/9/20~10/17
水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中の「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」を見てきました。
スイスを拠点に活動するアーティスト、ピピロッティ・リストは、身体やジェンダー、それに自然やエコロジーをテーマとした作品で知られ、心地よい音楽と鮮烈な色彩、そしてユーモアを伴う映像を展示しては多くの人々の心を捉えてきました。
そのピピロッティ・リストの30年にわたる活動を紹介するのが「Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」で、会場には映像インスタレーションを中心に約40点の作品が展示されていました。
「永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に(Ever Is Over All)」 1997年 京都国立近代美術館
冒頭の「永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に」は、街を歩く水色のワンピースを着た女性が、花の形をしたハンマーで車の窓ガラスを割っていく姿を映した作品で、もう一面の壁にはハンマーの形の元になった「クニフォフィア」の花の映像が断片的に投影されていました。
1997年のヴェネツィア・ビエンナーレに出展された同作は、自動車に象徴される男性社会を花の棒で破壊する女性という構図を描いた、言わばフェミニズムの記念碑的作品として高く評価されました。全く臆することなく楽しそうにガラスを割る姿が印象深いかもしれません。
「イノセント・コレクション」(1985〜2032年)に映像を投影する「アポロマートの壁」(2020〜2021年)
「イノセント・コレクション」は半透明、もしくは白色のプラスチエックや紙製の使い捨て容器に素材とした作品で、通常ゴミと扱われるモノに色鮮やかな映像「アポロマートの壁」を投影していました。リストはこのような素材を1985年から集めていて、今回は市民から提供された海のゴミなども一部に使用されました。
「眠れる花粉」 2014年
天井から鏡面状の球体がつられた「眠れる花粉」では、植物のモチーフが映されていて、枝葉や花、光のイメージが、球体を通して暗がりの空間全体へと散らばるように広がっていました。
「眠れる花粉」 2014年
いずれの植物も生命科学の研究機関であるチューリヒの大学に付属する植物園で撮影されましたが、鏡面状の球体は水泡のようにも見えて、まるで水の中を彷徨い歩いているような気持ちにさせられました。
「箱根の静けさ」 2020〜2021年
食卓やリビングルームなどを連想させる空間を抜け、会場最奥部にて展開するのが2面の壁面に投影された「もうひとつの身体」、「不安はいつか消えて安らぐ」、そして「マーシー・ガーデン・ルトゥー・ルトゥー/慈しみの庭へ帰る」の3つの映像でした。
ここでは人間と環境を取り巻く幻想的、あるいはシュールとも呼べる映像が展開していて、旧約聖書の「楽園追放」が起きなかった世界における人間の欲望や、身体の内側と外との関係などがテーマとして扱われていました。ともかく自然の草花から動物、人間の生身の身体が目まぐるしく入れ替わり、時に融合するように映されていて、もはや予測不可能なイリュージョンと言うべき映像世界が築かれていました。
また同作の前にはクッションやカーペットが敷かれていて、鑑賞者は寝そべりながら映像を見やるように工夫されていました。
「4階から穏やかさへ向かって」 2016年
ラストに登場する「4階から穏やかさへ向かって」は、天井から吊るされた雲のようなスクリーンによる映像作品で、観客は床に置かれたベットに横たわりながら見上げて鑑賞するように作られていました。
オーストリアとスイスの国境近くを流れる旧ライン川をモチーフにした作品には、川の中のさまざまな生き物や植物、さらに映り込む光や水の移ろいが映されていて、あたかも川底から水面を眺めているかのようでした。そしてここでも身体が重要なモチーフとなっていて、川の中でもがきつつ、光へと浮上する人の姿が映されていました。
「愛撫する円卓」 2017年
リスト自身が「アパートメント・インスタレーション」と呼ぶ居住空間を再現した展示は、くつろぎや安らぎを思わせつつも、時に性や身体を削りとるような映像表現も見られて、むしろ緊張と刺激に満ちた鑑賞体験を得ることができました。
「色とりどりの幽霊」 2020〜2021年
自然の美の中に垣間見える人間の魂の叫び、ないしユーモアの中に発露した狂気と呼べるような感情表現もリストの作品の魅力かもしれません。また楽焼やガラス瓶といったオブジェや床のカーペットにも映像を投影するほか、観客の立ち振る舞いによって変化する劇場的な空間構成にも大いに引かれました。
「アポロマートの床」より「アポロマートの壁」 ともに2020〜2021年
最後に会期、もしくは入場についての情報です。京都国立近代美術館より巡回してきたピピロッティ・リスト展は、8月7日より開催が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染症に伴う水戸市の方針を受け臨時休館となり、実に1ヶ月半遅れて9月20日に開幕しました。実質的な会期は約1ヶ月となりました。
混雑緩和のため土日は優先入場予約制が導入されました。なお会期も残すところ1週間を切りましたが、最終週に当たる16、17日の予約もすでに定員に達しているため、受付は終了しています。一方で平日に関しては予約なしにて観覧することができます。
靴を脱いで、寝そべったりしながら鑑賞する作品も少なくありません。履きやすい靴や動きやすい服での観覧をおすすめします。
私として巡回前の京都へ見に行こうとしていたほど期待していましたが、想像以上に楽しく、また考えさせられることの多い展示でした。
「感傷的なサイドボード」 2020〜2021年
写真と動画の撮影が可能でした。10月17日まで開催されています。
「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery)
会期:2021年9月20日(月・祝)~10月17日(日) *会期変更
休館:月曜日。祝日の場合は翌火曜日。
時間:10:00~18:00
*入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」
2021/9/20~10/17
水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中の「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」を見てきました。
スイスを拠点に活動するアーティスト、ピピロッティ・リストは、身体やジェンダー、それに自然やエコロジーをテーマとした作品で知られ、心地よい音楽と鮮烈な色彩、そしてユーモアを伴う映像を展示しては多くの人々の心を捉えてきました。
そのピピロッティ・リストの30年にわたる活動を紹介するのが「Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」で、会場には映像インスタレーションを中心に約40点の作品が展示されていました。
「永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に(Ever Is Over All)」 1997年 京都国立近代美術館
冒頭の「永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に」は、街を歩く水色のワンピースを着た女性が、花の形をしたハンマーで車の窓ガラスを割っていく姿を映した作品で、もう一面の壁にはハンマーの形の元になった「クニフォフィア」の花の映像が断片的に投影されていました。
1997年のヴェネツィア・ビエンナーレに出展された同作は、自動車に象徴される男性社会を花の棒で破壊する女性という構図を描いた、言わばフェミニズムの記念碑的作品として高く評価されました。全く臆することなく楽しそうにガラスを割る姿が印象深いかもしれません。
「イノセント・コレクション」(1985〜2032年)に映像を投影する「アポロマートの壁」(2020〜2021年)
「イノセント・コレクション」は半透明、もしくは白色のプラスチエックや紙製の使い捨て容器に素材とした作品で、通常ゴミと扱われるモノに色鮮やかな映像「アポロマートの壁」を投影していました。リストはこのような素材を1985年から集めていて、今回は市民から提供された海のゴミなども一部に使用されました。
「眠れる花粉」 2014年
天井から鏡面状の球体がつられた「眠れる花粉」では、植物のモチーフが映されていて、枝葉や花、光のイメージが、球体を通して暗がりの空間全体へと散らばるように広がっていました。
「眠れる花粉」 2014年
いずれの植物も生命科学の研究機関であるチューリヒの大学に付属する植物園で撮影されましたが、鏡面状の球体は水泡のようにも見えて、まるで水の中を彷徨い歩いているような気持ちにさせられました。
「箱根の静けさ」 2020〜2021年
食卓やリビングルームなどを連想させる空間を抜け、会場最奥部にて展開するのが2面の壁面に投影された「もうひとつの身体」、「不安はいつか消えて安らぐ」、そして「マーシー・ガーデン・ルトゥー・ルトゥー/慈しみの庭へ帰る」の3つの映像でした。
ここでは人間と環境を取り巻く幻想的、あるいはシュールとも呼べる映像が展開していて、旧約聖書の「楽園追放」が起きなかった世界における人間の欲望や、身体の内側と外との関係などがテーマとして扱われていました。ともかく自然の草花から動物、人間の生身の身体が目まぐるしく入れ替わり、時に融合するように映されていて、もはや予測不可能なイリュージョンと言うべき映像世界が築かれていました。
また同作の前にはクッションやカーペットが敷かれていて、鑑賞者は寝そべりながら映像を見やるように工夫されていました。
「4階から穏やかさへ向かって」 2016年
ラストに登場する「4階から穏やかさへ向かって」は、天井から吊るされた雲のようなスクリーンによる映像作品で、観客は床に置かれたベットに横たわりながら見上げて鑑賞するように作られていました。
オーストリアとスイスの国境近くを流れる旧ライン川をモチーフにした作品には、川の中のさまざまな生き物や植物、さらに映り込む光や水の移ろいが映されていて、あたかも川底から水面を眺めているかのようでした。そしてここでも身体が重要なモチーフとなっていて、川の中でもがきつつ、光へと浮上する人の姿が映されていました。
「愛撫する円卓」 2017年
リスト自身が「アパートメント・インスタレーション」と呼ぶ居住空間を再現した展示は、くつろぎや安らぎを思わせつつも、時に性や身体を削りとるような映像表現も見られて、むしろ緊張と刺激に満ちた鑑賞体験を得ることができました。
「色とりどりの幽霊」 2020〜2021年
自然の美の中に垣間見える人間の魂の叫び、ないしユーモアの中に発露した狂気と呼べるような感情表現もリストの作品の魅力かもしれません。また楽焼やガラス瓶といったオブジェや床のカーペットにも映像を投影するほか、観客の立ち振る舞いによって変化する劇場的な空間構成にも大いに引かれました。
「アポロマートの床」より「アポロマートの壁」 ともに2020〜2021年
最後に会期、もしくは入場についての情報です。京都国立近代美術館より巡回してきたピピロッティ・リスト展は、8月7日より開催が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染症に伴う水戸市の方針を受け臨時休館となり、実に1ヶ月半遅れて9月20日に開幕しました。実質的な会期は約1ヶ月となりました。
混雑緩和のため土日は優先入場予約制が導入されました。なお会期も残すところ1週間を切りましたが、最終週に当たる16、17日の予約もすでに定員に達しているため、受付は終了しています。一方で平日に関しては予約なしにて観覧することができます。
ピピロッティ・リスト展10月10、16、17日は全時間帯の優先入場予約が定員となりました。上記日程はギャラリーへの入場にご予約が必要です(招待券をお持ちの方、各種割引対象者含む)。平日はご予約なしで展覧会をご覧いただけます。キャンセルが生じた場合は(つづく)https://t.co/fMNosEMaYW
— 水戸芸術館現代美術センター (@MITOGEI_Gallery) October 10, 2021
靴を脱いで、寝そべったりしながら鑑賞する作品も少なくありません。履きやすい靴や動きやすい服での観覧をおすすめします。
私として巡回前の京都へ見に行こうとしていたほど期待していましたが、想像以上に楽しく、また考えさせられることの多い展示でした。
「感傷的なサイドボード」 2020〜2021年
写真と動画の撮影が可能でした。10月17日まで開催されています。
「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island -あなたの眼はわたしの島-」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery)
会期:2021年9月20日(月・祝)~10月17日(日) *会期変更
休館:月曜日。祝日の場合は翌火曜日。
時間:10:00~18:00
*入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
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