都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」 水戸芸術館
水戸芸術館 現代美術ギャラリー
「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」
2021/11/13~2022/1/30

水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中の「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」を見てきました。
現代美術家の佐藤雅晴は、カメラで撮影した日常の風景をパソコン上のペンツールを用い、なぞるようにトレースしたアニメーションの映像で知られ、かねてより国内外の展示にて作品を発表してきました。
2010年からは茨城県取手市に拠点を構えながらも、その直後より癌が発覚し、闘病生活を送りながら制作を続けてきましたが、2019年に惜しまれつつも45歳の若さで亡くなりました。
その佐藤の創作の全体像を紹介するのが「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」で、初期の映像から亡くなる直前まで描き続けた『死神先生』シリーズなど、映像26点と平面38点の計64点の作品が公開されていました。
まず冒頭の展示室にて展示されていたのは、1990年代後半から2010年頃までの比較的早い時期の作品で、とりわけ佐藤が実際に見た夢をモチーフにしたという『TRAUM』に目を引かれました。

『TRAUM』 2004-2007年
ここではドイツのデュッセルドルフを舞台に1人の青年が展望台に辿りつつ、そこから開ける街の光景と無意識下の情景が交錯するように展開していて、昆虫が重要な役割を果たすなど、シュールとも呼べる映像が築かれていました。

『I touch Dream #1』 1999年
大学卒業後に渡独した佐藤は、国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーに研究生として在籍し、約10年間同地にて滞在していて、最初期の『I touch Dream #1』などドイツ時代の作品も興味深いものがありました。

『calling(ドイツ編)』 2009-2010年
『Calling(ドイツ編)』とはデュッセルドルフで撮影した日常の光景を素材とした作品で、無人の駅のプラットホームなど、誰もいない空間に電話のベルが鳴り響く12の場面をアニメーションとして表現していました。

『calling(日本編)』 2014年
この『Calling』はのちに日本を舞台とした映像も『日本編』として制作され、和室の一角やカラオケボックス、それにオフィスなどを背景に、同じように電話のベルのみがまるで空間を割くように寂しく鳴っていました。

『東京尾行』 2015-2016年
ドビュッシーの「月の光」を奏でる自動演奏のピアノを囲むように映されていたのが、12チャンネルの映像に90の光景を映した『東京尾行』の連作でした。

『東京尾行』 2015-2016年
そこには公園や厨房、またレストランで食事をする人、さらには国会前の交差点の光景などが映されていて、いずれも実写を交えてモチーフのみがアニメーションとして表現されていました。一部の作品においてはアニメと実写との関係は曖昧で、どこがアニメでリアルなのかを探りながら見ていくのも面白く思えました。

『東京尾行』 2015-2016年
佐藤は初期の映像はすべてトレースにて制作していましたが、『東京尾行』からは部分のみをアニメーション化する方法をとっていて、それがむしろ現実と虚構の間を彷徨うような独特の情景を生み出していました。

『福島尾行』 2018年
この『東京尾行』に続くのが、東日本大震災後の福島を舞台としたのが『福島尾行』で、原発事故に伴う帰宅困難地域やフレコンバッグが積み上がる横を常磐線の特急が走る光景を描いてました。

『福島尾行』 2018年
また『福島尾行』においても同じく自動演奏のピアノが置かれていましたが、一切の音は発せずに、ただ無音の鍵盤のみが動いていました。

『ダテマキ』 2013年
佐藤は震災後の福島をたびたび取材していて、津波の被害を受けて再建したいわき市の蒲鉾工場の製造ラインをモチーフにした『ダテマキ』を制作しました。

『ダテマキ』 2013年
かき混ぜ、わけ、ならし、焼いてはうつわから出すといった、ダテマキの自動製造工程を7つのチャンネルで映していて、無機的な光景ながらも終始見入ってしまうような独特の魅力が感じられました。

「死神先生」シリーズ
ラストに並ぶのが、佐藤が生前最後の個展作品として公開した『死神先生』の連作で、9点のアクリル画と時計のオブジェにて構成されていました。

「死神先生」シリーズから『ガイコツ』 2018年
これは闘病生活において映像制作が困難になったものの、創作意欲こそ失わなかった佐藤が、自宅のチャイムやスイッチ、それに寝室から見上げた夜空などを描いたもので、すべての作品に佐藤本人がコメントを添えていました。それらは穏やかな語り口ながらも、半ば死を悟った佐藤の内面がにじみ出ているようで、何ともやるせない気持ちにさせられました。

『バイバイカモン』 2010年
代表的な『東京尾行』や『福島尾行』、それに『ダテマキ』のみならず、ドイツ時代から亡くなる前の作品を追うことで、佐藤の幅広い制作を俯瞰できるような内容だったかもしれません。

『バインド・ドライブ』 2010-2011年
暗がりの中、電話のベルや『月の光』などを耳にしつつ、それぞれの作品を見ていくと、いつしか佐藤が映像で描いたパラレルワールドへと引き込まれるような錯覚に囚われました。

『SM』2015年
また鑑賞ガイドに佐藤を知るためのキーワードとして「ループ」や「トレース」、それに「シンクロ」とともに、佐藤本人も好きだったという「ホラー」が挙げられていましたが、どことない寂寞感や一抹の恐怖感を覚えるような展示でもありました。
会場内は一部の作品を除いて撮影が可能でした。1月30日まで開催されています。
「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery)
会期:2021年11月13日(土)~2022年1月30日(日)
休館:月曜日。年末年始(12月27日~1月3日)、ただし1月10日(月・祝)は開館し、1月11日は休館
時間:10:00~18:00
*入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」
2021/11/13~2022/1/30

水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中の「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」を見てきました。
現代美術家の佐藤雅晴は、カメラで撮影した日常の風景をパソコン上のペンツールを用い、なぞるようにトレースしたアニメーションの映像で知られ、かねてより国内外の展示にて作品を発表してきました。
2010年からは茨城県取手市に拠点を構えながらも、その直後より癌が発覚し、闘病生活を送りながら制作を続けてきましたが、2019年に惜しまれつつも45歳の若さで亡くなりました。
その佐藤の創作の全体像を紹介するのが「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」で、初期の映像から亡くなる直前まで描き続けた『死神先生』シリーズなど、映像26点と平面38点の計64点の作品が公開されていました。
まず冒頭の展示室にて展示されていたのは、1990年代後半から2010年頃までの比較的早い時期の作品で、とりわけ佐藤が実際に見た夢をモチーフにしたという『TRAUM』に目を引かれました。

『TRAUM』 2004-2007年
ここではドイツのデュッセルドルフを舞台に1人の青年が展望台に辿りつつ、そこから開ける街の光景と無意識下の情景が交錯するように展開していて、昆虫が重要な役割を果たすなど、シュールとも呼べる映像が築かれていました。

『I touch Dream #1』 1999年
大学卒業後に渡独した佐藤は、国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーに研究生として在籍し、約10年間同地にて滞在していて、最初期の『I touch Dream #1』などドイツ時代の作品も興味深いものがありました。

『calling(ドイツ編)』 2009-2010年
『Calling(ドイツ編)』とはデュッセルドルフで撮影した日常の光景を素材とした作品で、無人の駅のプラットホームなど、誰もいない空間に電話のベルが鳴り響く12の場面をアニメーションとして表現していました。

『calling(日本編)』 2014年
この『Calling』はのちに日本を舞台とした映像も『日本編』として制作され、和室の一角やカラオケボックス、それにオフィスなどを背景に、同じように電話のベルのみがまるで空間を割くように寂しく鳴っていました。

『東京尾行』 2015-2016年
ドビュッシーの「月の光」を奏でる自動演奏のピアノを囲むように映されていたのが、12チャンネルの映像に90の光景を映した『東京尾行』の連作でした。

『東京尾行』 2015-2016年
そこには公園や厨房、またレストランで食事をする人、さらには国会前の交差点の光景などが映されていて、いずれも実写を交えてモチーフのみがアニメーションとして表現されていました。一部の作品においてはアニメと実写との関係は曖昧で、どこがアニメでリアルなのかを探りながら見ていくのも面白く思えました。

『東京尾行』 2015-2016年
佐藤は初期の映像はすべてトレースにて制作していましたが、『東京尾行』からは部分のみをアニメーション化する方法をとっていて、それがむしろ現実と虚構の間を彷徨うような独特の情景を生み出していました。

『福島尾行』 2018年
この『東京尾行』に続くのが、東日本大震災後の福島を舞台としたのが『福島尾行』で、原発事故に伴う帰宅困難地域やフレコンバッグが積み上がる横を常磐線の特急が走る光景を描いてました。

『福島尾行』 2018年
また『福島尾行』においても同じく自動演奏のピアノが置かれていましたが、一切の音は発せずに、ただ無音の鍵盤のみが動いていました。

『ダテマキ』 2013年
佐藤は震災後の福島をたびたび取材していて、津波の被害を受けて再建したいわき市の蒲鉾工場の製造ラインをモチーフにした『ダテマキ』を制作しました。

『ダテマキ』 2013年
かき混ぜ、わけ、ならし、焼いてはうつわから出すといった、ダテマキの自動製造工程を7つのチャンネルで映していて、無機的な光景ながらも終始見入ってしまうような独特の魅力が感じられました。

「死神先生」シリーズ
ラストに並ぶのが、佐藤が生前最後の個展作品として公開した『死神先生』の連作で、9点のアクリル画と時計のオブジェにて構成されていました。

「死神先生」シリーズから『ガイコツ』 2018年
これは闘病生活において映像制作が困難になったものの、創作意欲こそ失わなかった佐藤が、自宅のチャイムやスイッチ、それに寝室から見上げた夜空などを描いたもので、すべての作品に佐藤本人がコメントを添えていました。それらは穏やかな語り口ながらも、半ば死を悟った佐藤の内面がにじみ出ているようで、何ともやるせない気持ちにさせられました。

『バイバイカモン』 2010年
代表的な『東京尾行』や『福島尾行』、それに『ダテマキ』のみならず、ドイツ時代から亡くなる前の作品を追うことで、佐藤の幅広い制作を俯瞰できるような内容だったかもしれません。

『バインド・ドライブ』 2010-2011年
暗がりの中、電話のベルや『月の光』などを耳にしつつ、それぞれの作品を見ていくと、いつしか佐藤が映像で描いたパラレルワールドへと引き込まれるような錯覚に囚われました。

『SM』2015年
また鑑賞ガイドに佐藤を知るためのキーワードとして「ループ」や「トレース」、それに「シンクロ」とともに、佐藤本人も好きだったという「ホラー」が挙げられていましたが、どことない寂寞感や一抹の恐怖感を覚えるような展示でもありました。
【好評開催中 1.30日まで】『佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在』 10:00~18:00 *入場は17:30までパソコンを用いて日常風景をアニメーション化する映像作品で、国内外で高い評価を受ける中、2019年に45歳で他界した佐藤雅晴の回顧展。▽詳細Webhttps://t.co/AM0lkhKhkR pic.twitter.com/CQOR1bSDoZ
— 水戸芸術館 (公式) (@art_tower_mito) January 4, 2022
会場内は一部の作品を除いて撮影が可能でした。1月30日まで開催されています。
「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery)
会期:2021年11月13日(土)~2022年1月30日(日)
休館:月曜日。年末年始(12月27日~1月3日)、ただし1月10日(月・祝)は開館し、1月11日は休館
時間:10:00~18:00
*入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
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