『ヴァロットン―黒と白』 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
『ヴァロットン―黒と白』
2022/10/29〜2023/1/29



19世紀末のパリで活躍した画家、フェリックス・ヴァロットン(1865〜1925年)は、版画や挿画、雑誌や新聞の挿絵、さらには油彩画などを手がけ、幅広く創作を行いました。

そのヴァロットンのモノクロームの世界に着目したのが『ヴァロットン―黒と白』で、会場では「アンティミテ」や「万国博覧会」、「これが戦争だ!」をはじめとする約180点の主に木版画が公開されていました。

スイス・ローザンヌ生まれのヴァロットンは、1882年、16歳にしてパリへと出ると、1891年より友人であり師でもあったシャルル・モランらの手解きを受け、木版画の制作をはじめました。



当初、身近な人々の肖像やスイスの山並みなどを描いていたヴァロットンは、やがてパリの街へと眼差しを向けると、さまざまな世代や階級の人々の集う雑踏などをモチーフに木版画を手がけるようになりました。



このうち「息づく街パリ」や「祖国を讃える歌」では、近代都市パリを舞台にデモや熱狂する群衆などを描いていて、さまざまな人物の立ち振る舞いを白と黒のみにて鮮やかに表現しました。



また子どもやモード、また死などもヴァロットンが集中して手がけたテーマで、そのうちの死から『暗殺』では室内空間における殺人事件を、暗示的にでかつ切迫感のある画面にて描きました。



男女の親密な関係をテーマにした「アンティミテ」では、男女がソファで抱き合う『嘘』をはじめ、同じく寄り添いながらの心理の駆け引きを思わせる『お金』といった傑作を生み出しました。

1914年に第一次世界大戦が勃発すると、ヴァロットンは戦争に関心を抱くようになり、当初は入隊を希望するも年齢制限のために叶うことはありませんでした。すると大きく落胆し、一時はアトリエに通うことすらやめてしまったものの、翌年から創作意欲を取り戻すると、戦争をテーマとした連作「これが戦争だ!」と描きました。

そこには塹壕の兵士や市民への攻撃の光景などが有り体に表されていて、時代こそ異なるものの、今もなお続いて止まない戦争の悲惨さを強く感じてなりませんでした。



2014年、三菱一号館美術館では『ヴァロットンー冷たい炎の画家』を開き、代表的な油彩に版画を合わせて約130点超の作品を公開しました。これは当時、国内では初めてとなるヴァロットンの回顧展で、美術ファンの大きな話題を集めました。



以来、約8年、今回はほぼ木版(一部に油彩あり)のみの展示ですが、油彩同様、人間のミステリアスなドラマが描かれたような作品世界に改めて心を引かれました。


WEBメディア「イロハニアート」へも展示の見どころを寄稿しました。

ヴァロットンの木版画の世界へ。ヴァロットン―黒と白が三菱一号館美術館で開催中 | イロハニアート

一部展示室の撮影も可能です。2023年1月29日まで開催されています。

*写真は『ヴァロットン―黒と白』会場風景、および「アンティミテ」アニメーションより。

『ヴァロットン―黒と白』 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:2022年10月29日(土) 〜 2023年1月29日(日)
休館:月曜日。12月31日、1月1日。(ただし10月31日、11月28日、12月26日、1月2日、1月9日、1月23日は開館)
時間:10:00~18:00。
 *金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1900円、高校・大学生1000円、中学生以下無料。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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