『桃源郷通行許可証』 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
『桃源郷通行許可証』
2022/10/22~2023/1/29



埼玉県立近代美術館で開催中の『桃源郷通行許可証』を見てきました。

中国の詩人・陶淵明の物語「桃花源記」に由来する桃源郷は、世俗と隔離された美しい平和の世界とされ、古くより多くの人々が憧憬を抱いて来ました。


松井智惠×橋本関雪

その桃源郷をテーマに芸術作品の魅力を紐解くのが『桃源郷通行許可証』で、絵画や写真、ドローイングやインスタレーションなどを手がける現代の6名の作家の作品と、同館のコレクションが組み合わされるようにして展示されていました。

まず冒頭のプロローグでは桃源郷を描いた小川芋銭をはじめ、神話や物語をモチーフとした絵画が展示されていて、人が桃源郷に抱いたさまざまなイメージを見ることができました。

それに続くのが光を絵画にて捉えようとした斎藤豊作と、ピンホールカメラの原理を援用し、光の原初的なすがたを写す佐野陽一の展示で、絵画と写真という異なったメディアながらも、色や光が互いに共鳴しているように見えました。


松井智惠×橋本関雪

日本画家の橋本関雪と現代美術家の松井智惠の展示も魅惑的でした。ここでは関雪が美しく牧歌的な景色を描いた日本画を起点に、謡曲の物語を踏まえた松井の「ひばり山」の油彩の連作などが並んでいて、互いの色とかたちが混じり合い、辺りへと溶けていくような光景を目の当たりにできました。


東恩納裕一×マン・レイ/キスリング/山田正亮/デ ザイナーズ・チェア

東恩納裕一を筆頭に、マン・レイ、キスリング、山田正亮や柳宗理らのデザイナーズチェアを交えた展示もスリリングともいうような緊張感のある構成だったかもしれません。


東恩納裕一×マン・レイ/キスリング/山田正亮/デ ザイナーズ・チェア

ちょうど展示室の中央にはLEDによる「果物皿」などが並んだダイニングセットが置かれていて、その周囲を山田のストライプの作品や東恩納の蛍光管を用いたオブジェなどが展示されていました。


東恩納裕一×マン・レイ/キスリング/山田正亮/デ ザイナーズ・チェア

このダイニングセットをはじめ、色とりどりの椅子や壁の色、さらにLEDの灯りなどが渾然一体となって空間を築いていて、個々の作品を超えた空間そのものが1つのインスタレーションとして築かれていました。


文谷有佳里×菅木志雄

このほか、稲垣美侑と駒井哲郎、また文谷有佳里と菅木志雄の展示も面白いのではないでしょうか。とりわけ文谷の素早いタッチによるドローイングと、菅の木や角材を用いたオブジェとが、平面と立体の垣根を越え、互いに組み合わった構造体として浮き上がっているように見えるのも興味深く思えました。


松本陽子×瑛九/ジャン=バティスト・カミーユ・コロー/菱田春草/丸木位里

桃源郷がどこにあり、また何を意味するのかは1人1人にとって違うのかもしれませんが、時代やジャンルを超えた作品同士の出会いは時に共鳴しつつ、また対峙もしていて、実に多様な光景を生み出していました。


埼玉県立近代美術館のコレクションの魅力を引き出しつつ、現代美術家の活動のいまを楽しむことのできる展示と言って良いかもしれません。

2023年1月29日まで開催されています。

『桃源郷通行許可証』 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2022年10月22日(土) ~2023年1月29日(日)
休館:月曜日(11月14日、1月9日は開館)。12月26日(月)~1月3日(火)は休館。
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200(960)円 、大高生960(770)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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