◆ちゃんとしゃべれ!治納由気(はるなゆき)◆

変な日本語、敬語もどき、崩れていく日本語、そして、正しい日本語とハムスター。

「大きな傷痕をもたらした」って?

2012-07-22 09:25:33 | 気になる言葉、具体例
                                  爪を切らねば

 「ハリケーンはルイジアナ州各地に大きな傷痕をもたらした」は「世界まる見え!テレビ特捜部」で聞いたナレーションですが、ちょっと変でしょ? ハリケーンが襲った直後のニュースなら、大概は「被害」という言葉が出てきます。それに、「もたらした」なら、やはり「大きな被害をもたらした」ですよね。「○○を△△」の○○と△△がどうもうまくマッチしません( ̄ ̄)。
 一方、「傷痕」というのは、傷つけられた結果として残るもので、例えば、腕にけがをした、しばらくたって傷そのものは治ったけれど痕が残った、こういうことになります。「世界まる見え!テレビ特捜部」が報道番組でないことから考えると後者、ハリケーンの被害は大きかった、月日はたったけれども元どおりになってはいない、つまり、「ハリケーンはルイジアナ州各地に大きな傷痕を残した」ですかね。
 もう少し考えてみましょう。日本でも、竜巻だの豪雨による水害だの、自然災害が多く発生していますが、そのたびに聞こえてくるのは「爪跡を残した」です。「台風の爪跡」は台風が後に残した被害という意味で、直後はもちろん、しばらくたってからでも、復旧が完全でないなら「大きな爪跡を残した」と言えますね。変換候補には「爪痕」もありますが、この場合は「爪跡」です。
 というわけで、「ハリケーンはルイジアナ州各地に大きな爪跡を残した」が適当であると思うのですが、ひょっとして、原稿を書いた人は「傷痕」に何か特別な意味を込めているとか・・・、それなら、まぁ、いいですよ、いいですけれど、「~をもたらした」はいけません。「傷痕」を「もたらす」わけではないのですよ。
 「痕」で思い出したのですが、「生々しい血痕のあとが見られます」と言ったのは「とくダネ!」リポーター。ほかにも、「注射痕のあと」「大量の血痕のあと」「弾痕の痕」というテロップを見たことがあります。「満面の笑顔」と同じくらい多く聞こえてくる重複の例ですね。ちなみに、「あと」と書いてあるのは、「痕」が常用漢字外だったからです。「○○痕」「痕跡」は、「こん」と書くとかえって分かりにくいので「痕」ですが、「痕」と書いて「あと」と読ませることまではできなかったのです。
 それにしても、「痕」って、あまり理解されていないのかな? 正しくは「血痕」「血の痕」「注射痕」「注射の痕」「弾痕」「弾丸の痕」です。「痕(コン・あと)」は常用漢字に追加されたようなので、今は「痕」と書いて「あと」と読ませることができます。ところで、火事の「やけあと」はどう書くか。火事も、「焼く」ではなく「焼ける」ですね、「焼き芋」とは違いますよ、「焼け跡」ですよ。
コメント
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