非常通報機(ボタン)と非常ドア解放装置、これらは地下鉄の車両には必ず付いているものだが、電車遅延の際に『電車内で急病人が発生』『電車内の確認』などで非常ボタンが押されため、遅延しており申し訳ございません、というアナウンスは聞く機会も多い。
また、子供がいたずらでボタンを押したとか、乗客同士のケンカが発生したために非常ボタンが押され困ったもんだ、といったネットへの投稿も多い。しかし、実際に目の前でこのボタンを押すところを目撃することは滅多にない。
小生は通勤でいつものように1月5日東京メトロ半蔵門線渋谷駅発午前7時準急久喜行に乗車した。まだ、お正月モードも残っており、人も少なく、表参道駅を越えると大半の人が席に座る状態だった。小生は最も前のドアの近く、すぐ後ろが非常ボタンのある席に偶然座っていた。
特に変わったこともない風景を一変させたのは九段下駅に到着した際。ガタッという音がして左斜め前の端の席に座っていた筈の人が座席から崩れ落ちたのだ。あわてて隣の男性が頭を打たないように支えた。ちょうど駅に停車中で間も無くドアが閉まろうとした時であったが、倒れた男性の隣に座っていた人が小生の方に歩み寄ってきて何の躊躇なく非常ボタンを押した。すると予想以上の大きな音がして、同時に車掌から何があったのか問い合わせがあった。その男性は落ち着いて状況を説明、倒れた男性はなんとか意識はあるが頭を抱えていること、ホームに運び、壁に凭れるように座っていること、駅員に至急来てもらいたいことなどである。そして、倒れた男性の所に行き、駅員に引き渡すまで寄り添い、引き渡すと元の席に座り何もなかったように新聞を読み始めた。会社員風の彼の素性は分からないが、小生ではこのような手際の良い対応はできないなあと感心した。
非常通報機の導入は2001年にJR新大久保駅で発生した乗客転落事故が契機で、まずはホームに非常ボタンがつけられ、今は列車にも取り付けられている。しかし、小生など中々押す勇気がないが、こうやって使うんだという模範を見せられたような気がした。