米国のサブプライムの焦げ付きから始まった世界連鎖金融不安から不況へ進む暗黒の9-11月に相応しい、今年度ノーベル賞を受賞したクルーグマンやフェルドシュタインからSローチなど当代を代表する経済学者やエコノミストの経済危機に関する著作を読んで見た。 私には経済学の素養が無いので消化不良のものもあったが、ノーベル賞受賞の話題性、比較的安易な文章で、現在の世界経済の混乱を鳥瞰する上でも、クルーグマン教授の論文集「資本主義経済の幻想」をお勧めしたい。
もう一つ読み比べることを勧めたいのは、経済学者(クルーグマン)とアナリスト(ローチ)の目線と時間軸の違いである。前者が経済はいずれ合理的な均衡状態に落ち着くとして一時的な不規則性を取り上げず、後者は変化の時間ズレに注目し過渡現象として起こる摩擦や問題に目を向ける傾向が強い。
しかし、実は今回最も読書をお勧めしたいのは、経済書ではない。ポール・ジョンソンの「インテレクチュアルズ」は歴史上燦然と輝く業績を残した知識人が、一方で、私生活においては身勝手で自説を通す為には事実を無視し、自説に反する行為を臆面も無く続け、支持者を利用し平気で裏切ったことを綿密に記したもの。
大義の前では全ての小事は踏み潰してもいいという身勝手さに共通点がある。それ位の思い込みがないと成功しないのかもしれないが、周囲を気にする私には理解できない。面白いのは上記のクルーグマン教授が「グレートマン症候群」といって、ビジネスの成功者が経済政策に口を出す愚かさを指摘して、同じことを言っているのが面白い。
(3.0)インテレクチュアルズ Pジョンソン 1990 共同通信社 本書は端的に言うと「最高の暴露本」で、大変興味深く面白い。本書の「知識人」とは自分の信じる思想で社会を変えると思っている人達のことで、彼らの高邁な思想と生身の生活の間に悲惨なほどのギャップがあり、自説に邪魔な客観的事実を無視する傾向を指摘し、専門分野を外れた「ご宣託」は話半分に聞けというもの。
(2.0+)日本経済と信頼の経済学 稲葉陽二・松山健士 2002 東洋経済 90年代以降の日本経済停滞は全要素生産性の大幅な低下にあると指摘、その原因として「ソーシャルキャピタルの毀損」と「政府の失敗」にあるとしてその対応を説いている。対策は通り一遍の観が否めない。
(X)経済危機 Mフェルドシュタイン 1992 東洋経済 フェルドマン、フリードマン、クルーグマン、サマーズ、ボルカーなどそうそうたる経済学者が金融危機について書いた論文集。ブラックマンデー後と時代背景は異なるが、日本のバブルや現在の世界連鎖金融危機に共通する問題を指摘する部分がある。門外漢の私にはチョット読みこなせない専門的な内容で、評価は憚れる。
(3.0-)資本主義経済の幻想 Pクルーグマン 1998 ダイヤモンド社 94-98年のアジア危機頃までに書かれた論文を纏めたもので、当時大流行したニューエコノミーを批判し、グローバリゼーションではクールに経済理論(一般均衡論)を適用する。論じるにあたり有名なベイビーシッター組合など簡単なモデルで説明し、実体経済から遊離しない姿勢が、読者を安心させる。
(2.5+)超大国の破綻 Sローチ 2003 中央公論社 世界で最も読まれるアナリストで、私もその一人。著者は米国の財政・経常赤字は持続不可能で世界的な調整(リバランシング)が起こると予測する。米国の過剰消費に依存する世界経済の危うさを指摘し、今日の不動産バブル崩壊を的確に警告している。
(2.0+)幼児化する日本社会 榊原英資 2007年 東洋経済新報社 今日のしつけや教育問題、企業倫理から地方分権まで、物事を1か0で決め付け判断することを日本社会の幼児化と警鐘を鳴らす。殊にマスメディアの善悪をズバッと決め付ける弊害の指摘は共感する。しかし、小泉改革は理屈抜きで嫌悪しているように感じる。そこには官僚的な臭いのようなものを感じる。
(2.0-)ラムズフェルド Jクレイムズ 2003 KKベストセラーズ イラク戦争前の高い評価を受けた時代に書かれ、ラムズフェルド長官の光のみ描かれている。フォード政権の首席補佐官から製薬会社に転じ再建した時、初め静かに情報収集に当たりその後大胆に「最高の人を雇い、邪魔者は排除」の成功体験が、独善的な国務長官という評価の表裏になっていると思われる。
(1.5)ディープ・スロート ボブ・ウッドワード 2005 文藝春秋 副題が「大統領を葬った男」ディープ・スロートの正体が当時のフェルトFBI副長官であることが解き明かされる過程を、事件報道の回顧を交えて描いたもの。ウォーターゲート事件の知識がないと読んでも何が面白いのか分からないだろう。
(2.0)1900年のハリケーン Eラーソン 2000 文春文庫 3年前ハリケーン・カトリーナがニューオーリンズを壊滅させた時話題になった本、読もうと思って今まで積んでいた。ハリケーンの強さと経路を予測できず甚大な被害が出た、自然の驚異と人災的要素が生き生きと描かれている。
(2.0)クライマーズ・ハイ 横山秀夫 2006 文春文庫 ジャンボジェットが御巣鷹山に墜落し520人が死んだ史上最悪の航空機事故を、地元新聞の全権デスクとして報道に取り組む主人公の姿が骨太く描かれている。小説ではあるが新聞人のあるべき姿を問う硬派の内容だ。数年前に見たTVドラマも良く出来ていたと思うが、ドラマでは読み取れなかったニュアンスまで感じ取れた。
(2.0+)下流社会 三浦展 2005 光文社 東京近郊の4世代、昭和一桁、団塊、新人類、団塊ジュニアの階級意識を教育やあらゆる角度から調査分析し、格差拡大と固定化パターンの仮説を説いたもの。格差拡大を単純に小泉改革に帰す類書に比べ、サンプルは少ないがデータで仮説を展開する姿勢が好ましい。個人的にも、私や家族を外から客観的に見るようで大変興味深い。
(2.0)生活習慣病 田上幹樹 2000 ちくま新書 最初に多くの症例を紹介した後、高血圧・糖尿病・高脂血症・と肥満・痛風について病気のメカニズムと治療法について解説したもの。私には専門的に過ぎる部分もあるが、身に覚えのある症例が最後まで読む興味を繋がせてくれた。
(1.5-)ザ・リコール 志摩峻 2006 ダイヤモンド社 三菱自動車をヒントにした欠陥自動車を巡るメーカー・損害保険会社に暴力団を絡めたビジネス小説。経験からいうと品質管理部門の置かれた立場に理解できるところあり、臨場感ある娯楽小説だが、暴力団を絡める必然性を感じない。
(1.0)デフォルト 相場英雄 2005 ダイヤモンド社 政府・日銀の嘘を暴いて死を招いたエコノミストの友人たちが復習する物語。設定や展開がチープで、いかにもという感じでつまらない。
(1.5)小説・巨大銀行システム崩壊 杉田望 2002 毎日新聞社 みずほ銀行誕生時の不良債権処理とシステムトラブルをモデルにした経済小説。金融庁との不良債権処理のせめぎ合いは面白いが、あっけない決着とその後のシステムトラブルの扱いがおざなり。上記の2冊よりはまし。
(1.5+)ダイエー落城 2004 日本経済新聞社 上記小説の流通大手「タイケー」がモデルで時期が重なる。小説より面白い。主力銀行の不良債権処理を優先する金融庁と、ダイエーの監督官庁で支援してきた経産省との間の綱引きでダイエー倒産間際のドラマが生まれた成り行きを記録したもの。当時の記事の寄せ集め感は否めないが、まだ3年半前の出来事で生々しさを感じ取れる。■