お金が逆流している
今朝目が覚めてラジオをつけると、NY外国為替市場でドル売りが進み4ヵ月半ぶりの安値を96円台突入、NY証券市場はダウ平均96円安、金最高値更新・原油急反落・長期金利急低下を報じていた。最も安全な住処であるはずの米国債に小火(ボヤ)が出て、マネーが慌てて飛び出して他のより安全な住処を求めて逆流し始めた様に感じる。
この異変の直接の原因は、米政府の債務上限引き上げと財政赤字削減めぐって政治が迷走し、このまま8月2日を迎えれば債務不履行や国債格付け引き下げ必至の状況だからだ。先週まではギリシャの財政危機が欧州を揺るがし、最悪ケースはイタリー・フランスにまで波及すると恐れられたが、とりあえず救済案が合意され問題は先送りされた。そして次にドルが獲物になった。
世界は財政危機競争
多くの先進国は財政危機に陥ったが、国民の反発を恐れて政治は根本措置を先送りしている。政治の機能不全は日本だけではない。米国は来年の大統領選に備えて財政問題を人質にとって駆け引きをしている。欧州は一人勝ちのドイツに何とか金を出させようと救済スキームの争いでユーロ安になる一方、お陰でドイツ経済が益々強くなる構図が続いている。
世界のあちこちに時限爆弾やパニック・ボタンがあり、どこか1箇所で押し間違えると再び世界同時信用不安を引き起こす状況にある。リーマン・ショック以降に急増した過剰なマネーが梃子の原理で事態を大きくしているのだ。従来と異なるのは、かつてない過剰流動性が受け皿からはみ出して実体経済を圧倒し、マネーの流れに大きな歪みを与えていることだ。
誰も信用できない事態ですべきことは
日米欧の財政危機は、正に「誰も信用できない」状況である。頭に浮かんだイメージを最近読んでいる時代小説風に言うと、手傷を負って逃れて荒野のみすぼらしい農家に隠れたが、三方から追っ手らしき人の声が迫ってくる中、手当てをしてくれる農民の娘に身を委ねる落ち武者の姿だ。
その心は、誰も信じられずかつ即座に意思決定が求められた時の選択は限られている。全て信用できなくとも娘を信じて傷の応急手当を頼み、残る一方の逃げ道を確保するしかない。当座の目標は「質への逃避」であり、娘は「米国債」、一方の逃げ道の確保とは「流動性の確保」である。
楽観的な理由
最後には米国の債務上限引き上げの対立は決着する、と市場は高をくくっている。そんな馬鹿なことはしないと。私が米国に赴任した90年代半ばにも、クリントン大統領と議会が債務上限引き上げと歳出削減要求が対立し連邦政府窓口が閉鎖される事態になった。当時それ程大騒ぎしなかったように記憶しているのは、総合的な米国の国力が圧倒的で疑いがなかったからだろう。
今回のメディアの論調は概して私以上に楽観的だ。日経(豊島逸夫氏)は「それでも米国債は買われる」といい、WSJは「苦笑いして持ち続けるしかない米国債」と言う。又、ホスキンス氏(元地区連銀総裁)は仮に8月2日に間に合わなくともカタストロフィックな事態にはならないという。現実的に巨額のマネーが納まる住処は米国債以外にないと私も思う。
最悪ケースにどう備えるか
私も楽観的だが、万が一の可能性がゼロではないと思う。格付け引き下げの可能性はかなりある。馬鹿な事態(債務不履行)になるとすれば、多分それは「原理主義」が劇薬になった場合のことである。茶会の原理主義は共和党の妥協を妨害して劇薬になる恐れがある。その場合、経済よりも米国の政治景色を大きく変えることになるというのが私の予想だ。
最悪ケースの雛形は既に市場にある。株価下落・円高・長期金利上昇・・・がより進むが、リーマンショックのようなカタストロフィックな事態に展開することはないと私も期待して予測する。今後の事態を見守りいざという時、夫々の事情に合わせタイムリーに現金化できるよう備えるのがベストだろう。だが、私は田舎に農家はあるがそこに娘はいない、不安を隠して事態の推移を見守るしかない。■