何とも評判の悪い法案だ。特定秘密保護法案は衆院特別委員会で強行採決され、その後の衆院本会議で可決された。新聞テレビはこの法案に大反対で、全社揃って国民の「知る権利」を損なうと報じた。だが、野党はみんなが賛成に回り、維新も法案修正で合意したが審議時間が十分でないと言っただけ、民主党も法案の必要性は認めた。政治とマスコミには温度差がある。だが、強行した安倍首相は後でツケを払うことになるかもしれない。
マスコミの反対のポイントは理解できる。秘密の範囲を厳密に絞り込み、第三者チェック機関が秘密指定の適否判定を行い、秘密解除後の公開ルールを明確にせよというもので、当然の指摘だと思う。公民に拘らず日本の官僚組織の隠蔽体質は、長い歴史の中で培われた悪性の遺伝体質で歯止が是非とも必要だ。マスコミの組織内にも例外なく存在する。
だが、それが特定秘密保護法に絶対反対する理由になるか私は分からない。というのは国によって差はあるが欧米の主要国には総て秘密保護法があるのに、我が国は不要というロジックが理解できないからだ。何故海外に秘密保護法があるのか必要性について全く触れないで、ただ反対反対と報じる新聞・テレビ報道に私は違和感がある。大震災時に原発事故が隠されたというのは筋違いで、反対の為には住民の反原発感情まで利用するというあざとさを感じる。
もっと正攻法で攻めるべきだ。反対論を構築したのと同じ熱意を持って必要性を論じ、その上で判断するプロセス或いは判断できる材料を読者に提供する、いわば物事を考える基本がこの特定秘密保護法のマスコミ報道に抜けている。マスコミは政府が何故ここで法案を出してきたか深く掘り下げて報じ、それに対して(例えば安全保障など)どう考えるか報じるべきだ。
昨日の日本経済新聞では「ある国の情報トップは『日本がしっかり整備すればもっと情報交換が進む』と話していた」という安倍首相の言を引用して必要論を紹介した程度だ。朝日新聞はその程度の情報すら紹介してない。ただ「知る権利」だけを振り回し、「メディアの利益を守る権力闘争をしているつもりはない(朝日新聞11/27)」と書いても言い訳にしか私には聞こえない。 正直なところ特定秘密保護法は緊急を要する法か、或いは国民から重要な情報を隠す悪法か、まだ私は分からない。判断できる材料が少ない。秘密保護法の恣意的な運用でなくても、恣意的な報道から物事を正しく理解するのはとても難しい。秘密保護法のある欧米に世界で信頼されるマスコミが沢山あることを考えると、君等は一体何が言いたいのかと皮肉っぽく聞きたくなる。■