今年最後の外為市場で円高が進行、対ドルで再び76円台に突入、対ユーロで100円を切り11年ぶりの高値をつけた。欧州危機に揺れた2011年を象徴する1年の終り方だった。
恐れたリスクが現実になった
今年初めに「世界は国内事情の対処に追われ内向きの年になる」と予測した。米国はリーマン・ショック後の財政悪化に悩み、新興国はバブル崩壊・格差拡大が放置できない状況になり、世界経済は緩やかになるというものだった。同時に3つのリスクとして中国不動産バブル崩壊・欧州財政危機・米国経済回復停滞をあげ、扱いを誤ると世界経済は二番底に陥る恐れがあると予測した。
この1年を振り返って「大胆占い」を見直すと、予測したリスクの一つ欧州財政危機が長引き深まり、順調に回復を見せていた世界経済を停滞させたが、最悪の二番底までには至らなかった。一方、アラブの春と東日本大震災は年頭には兆しすら感じなかったが、結果的には世界経済にとってそれ程大きなインパクトを与えてない。大胆占いは概ね当ったと総括する。
欧州危機の爪痕が全世界に
占いでは今年の経済成長率は昨年以下になるが、個別には楽観的な予測をした。だが、上記のように欧州危機の深化と大震災は全ての経済活動に悪影響を与えた。日本総研(12月1日)によれば、世界の実質GDP成長率の見通しは、年頭の私の予想を下回って落着しそうだ。
米国の経済成長率は2%後半から3%前半 → 1.7%
欧州と日本は1%半ばから後半 → 欧州 1.7%、日本 ▲0.7%
中国は8%後半に低下 → 9.3%
他の新興国も踊り場に入り → インド 7.8% ブラジル 4.5%
総合して世界経済は4%半 → 3.9%
中国経済に関しては私の予想が悲観的に過ぎたかもしれない。実際中国のGDP成長率9.3%は2009年(9.2%)を上回りそう悪くはないように見える。だが、欧州危機による輸出の落ち込みが数字に表れてくるのは2012年になると私は予測する。
中東の春を対岸で眺める
米国が内向きになるにしても、これ程の速度で中東から撤退するとは予想しなかった。アラブの春にも積極的に関ろうとしなかった。来年の大統領選を控え財政悪化で国民に人気のない戦費を捻出する余裕が無くなったのが理由だが、完全撤退は拙速に過ぎ中東の安定に悪影響を与える恐れがありそうだ。欧州勢はリビア革命に関与したが及び腰だったし、新興国も欧州危機の為に身を守るだけで手一杯になった。概していうと各国は内向きになるよう強いられた。
欧州危機と米国の相対的影響力低下とあいまって中国の存在感が高まり、中国の支援を受けた財政危機諸国が民主的プロセスを妥協する恐れがあると予測したが見事に外れた。実際には、アラブの春で独裁者が追放される一方、中国も実利を考え財政危機の欧州諸国への支援を躊躇した。中国と関係の深い独裁国のミャンマーやアフリカが中国との関係を見直す事態になった。
アジアで競り合う米中
中東からの急ぎ過ぎる撤退と同様に予想出来なかったのが、世界第2位の経済大国かつ軍事大国になった中国が強圧的な外交に転換したのを警戒し、アジア各国が米国との関係を深めバランスを取る動きが鮮明になったことだ。
中東や欧州からアジアに重点をシフトした米国の戦略とも一致した動きだ。結果、私の予測に反し世界の民主化が進んだように感じる。来年世代交代する中国の新首脳陣がこのトレンドに対してどう反応するのか興味深い。
混迷でも超円高の復興日本
全く予想もしなかった東日本大震災は、日本の強みと弱みを浮き彫りにした。強さと優しさを併せ持つ被災した人々は世界の賞賛を浴び、寸断されたサプライチェーンを驚くべき速さで復旧させ日本の力を見せ付けた。一方で、震災復興や原発事故の一大事に政治は対立し、マスコミは政局を助長させるだけで建設的な論争に導けず二流であることを露呈した。
そんな中で、歴史的な円高の進行は日本企業の海外展開を予想以上に進めた。大震災以降もその動きは衰えていない。国を分ける論争となったTPP交渉参加の可否論議が示すように、我国の政治とそれを左右するマスコミ・民意がプロビジネスでないことは明らかになった。感情論的でビジネスに必要な冷静な損得判断が中々出来ない風土を改めて実感させられた。
お楽しみ
世界最高峰のMLBで長年活躍したイチロー・松井が揃って衰えを見せた年だった。まだ選手として存在感はあったが、日本人選手にチームリーダーとしての活躍は無理なようだった。その他の日本人MLBプレーヤーにもいつか監督やコーチをやりそうな感じを受けないのは残念だ。
いずれにしても世界最高峰の場所で活躍するのは容易くない、挑戦する姿勢を評価したい。一方、海外サッカーに進出した第二世代のJリーガーは徐々に実績を残し始め、ジャパンの底上げに貢献した。プロ野球と違うところは、伸び代の大きい若い世代から挑戦出来ることだが、ビジネス視点でJリーグのシステム見直しをすべき時が来たように感じる。■