ウォール街占拠デモ(Occupy Wall Street:OWS)は何を主張しているのか良く分からないという評がある。米国政治に強い影響力を与える様になった「茶会」のようになるのか、特に来年の大統領選にどんな影響を与えるのか、公になった記事等から推測してみたい。
We are the 99%
これがウォール街占拠デモの合言葉である。1%の富裕層が富の大半を保有し残りの世界を仕切っていることに対するアンチテーゼである。米中間層には没落感が強まっている。米議会予算局が25日発表した調査結果(10/26 WSJ)が状況を的確に表している。
記事によると2007年までの30年間の所得推移が、所得最高位の1%に入る家庭が275%伸びたのに対し、60%の中間層が40%足らず、再下位層の20%はわずか18%だった。言い換えるとこの30年間富裕層のみが劇的に所得を増やし、所得格差拡大が今も進行している。
国民が納めた巨額の税金を使って救ったウォール街の連中が、チョット経済が回復したといって又もや高額の報酬を得始めた一方で、米国の失業率は9.1%であり25歳以下に限ると27.7%にもなる。このままでは格差が更に進行する、もう黙ってはおられないと立ち上がったのである。
このウォール街占拠デモには「共通する概念」が見えないと言われている。いずれのデモも「経済政策の見直しや格差是正」を声高に叫んで現状に不満を表明する「複合集積体」である(大前研一氏)。だが、ニューヨークに始まったデモは1ヶ月以上も続き、フェイスブックやツィッターを通じて全米から世界に広がりを見せている。共通する概念も無く運動がこんなに広がるものか。
茶会は共和党に取り込まれた
それを考える上で、茶会(Tea Party)運動とよく比較される。茶会は中西部シカゴの白人中産階級から始まった。運動の主体は、地方都市の自営業者と非労組組合員の高卒白人労働者たちで、毎日曜日に教会に行く福音主義プロテスタント教徒、「働かざる者食うべからず」が信条だという(高濱賛氏)。
ウォール街占拠デモと同じく茶会の主体も実は残りの99%だが納税者であり、抗議の対象は政府であり健康保険制度改革や弱者優先のバラマキ財政といった無駄使いに強い反発があるという。米国では自主独立・自助精神は人物評価の基準であり共感を得やすかった。
その身近な憤りが、「小さな連邦政府・州政府の権限拡大」とか「合衆国憲法への回帰」を要求する抽象的なスローガンにすり代わり、共和党に巧みに取り込まれて反オバマ大統領運動の推進力になった。民主党は同じようにOWSを取り込めるだろうか。
引き裂かれている民主党
オバマ大統領はこれまでに一定の理解を示す発言をしている。しかし、デモ参加者は金融システムのあり方に対するより広範囲な不満を代弁と、持って回った慎重な発言をしている。来年の大統領選挙を控え選挙資金の大口寄付者である金融機関を簡単に敵に回す訳にはいかない。
一方、08年に初の黒人大統領誕生に導いた若いボランティアや組合、市民団体といった支持者達はOWS支援に回っている。米キニピアック大学がニューヨーク市の有権者1068人を対象にした調査では、67%がOWSを支持すると回答。来年の大統領選挙に向けて民主・共和両党にとって無視できない有権者の動向になる可能性があるという。
OWSの動機は経済格差にあり、グローバルな問題である経済格差をターゲットにしたからこそ、政治に無関心な若者層・失業者など主義主張を超えて共感し運動が急拡大した。政策云々よりも、早く経済回復させ失業率が改善する先行き明るさを求め、不満が表現している。
大胆に色分けすると、茶会の構成メンバーが自営業者・非組合労働者であるのに対し、OWSは失業者の負け組であるといえる。抗議の対象は前者が政府、後者が富裕層である。ここにもう一つの対応の難しさがあるように感じる。
ウォール街占拠デモは過激化する?
米国文化のもう一つの特徴は、お金を儲けるのは良いことだ、儲けただけ慈善に回す人が社会から高く評価され尊敬を受ける。BゲーツやWバフェットが尊敬されているのも、世界一の富豪であると同時に世界一の慈善家であるからだ。この精神が米国の活力を生んでいる。
オバマ大統領と民主党はこの価値観を両立させ、国民の多数から指示を受けるプランを見出してないように私は感じる。Wバフェットのように富裕層からもっと税金を取れと自ら提案する例外もあるが、上記の大口寄付者の金融機関はそうは思ってないだろう。
デモ発生以来1ヶ月が経ち、季節外れの大雪でもまだ続いているという。しかし、共通理念が無くリーダーもいない運動がこのままでは立ち行かなくなる可能性がある。雇用環境は変わっていないし、民主共和両党の対立で効果的な対策も出てこない。不満の表現だけでは世界連帯も難しい。閉塞感に耐えられなると過激化する恐れがないとは言い切れない。■