一体改革を巡る風向き
一体改革と消費増税について週末の新聞テレビの論調を注目した。概して言うと、政府は一体改革の必要性を地方まで浸透させよう動く一方、谷垣自民党総裁を初めとする野党は対決姿勢を強めた。1週間前「野田改造内閣と不幸な世論のすれ違い」を投稿した時より若干変化が見られる。
大きな変化はないが、野党の対立姿勢一辺倒を非難する微妙な風向きの変化も感じた。野党の中にもただ反対するだけではなく議論を深めていこうという声があり、これをマスコミが取り上げ始めた。風向きでどうにでも変わるお馬鹿なテレビ人気者達も微妙に言い方を変え、視聴者に考えるきっかけを与え始めたと感じる。余り期待は出来ないが。
危機感の共有は進んだか
上記記事で私は意見の違いは危機感に認識の差があると指摘した。危機感を共有すれば日本人は世界第一級の対応ができる子だと。又、ポールソン元米財務長官の言葉を引用して、「危機が訪れない限り困難で重要な動きは実現されない、何年も前から大勢で警鐘を鳴らしても間一髪のタイミングにならないと動かないのが人の常」なのも一方の事実だと。
現実は、危機とは一体どのようなものでいつ起こるか、この最も単純だが基本的な質問に対する答えが国民の間に共有されていない。基本的には一部の識者を除いて危機的な状況を正しく認識していない、ノンキなのである。まあ、知らない方が幸せかもしれない。
最悪シナリオ
破綻のシナリオは誰も公表していない、私は見たことはない。だがギリシャを見ればある程度想像はつく。それは国家破綻であり、先ず国債が暴落(言い換えると国債金利の暴騰)して始まる。例えば来年度予算は復興予算を含め96兆円のうち税収は42兆円しかなく、国債が暴落すると買ってくれなくなり震災復興や社会保障のお金がなくなる。その次に大増税と緊縮財政が来る。
そんなものでは済まない。国債の8割を保有する国内の銀行・年金基金(海外は6%)は、暴落によって壊滅的な評価損を出し流動性が枯渇(お金が回らなくなり)、資金力が弱くない普通の企業でも運転資金がなくなりバタバタ倒産し全国に失業が溢れる。勿論、生き残る企業もあるが。円安と物価高で現在の豊かな生活が維持できなくなる。これが私が予想する最悪シナリオだ。
「超」大きすぎて、誰も救えない
世界一の借金大国である日本にとって最大の課題は国債の暴落を防ぐこと、つまり破綻国家にならないことである。1000兆円の借金を抱える日本が破綻したら従来の仕方では対応できない。リーマン・ショック時の米国政府は金融機関を「大きすぎて潰せない」と言って救済したが、日本はそれをはるかに越えて「超大きすぎて誰も救えない」事態になる。最早一気には解決できない。
これが、野田内閣が不評を覚悟してぶち上げた一体改革の背景だと私は理解する。それじゃ、小沢派や野党が指摘するように、何で今の時期にマニフェストにも書いてないことを突然打ち出したのか。理由は、その危機が差し迫っている(状況によっては)と認識しているからだ。一体改革で収支をバランスさせる国の構造に至る道を示し市場を納得させれば、目的達成となる。
欧州危機の次の標的は?
危機は本当に差し迫っているのか。多くの専門家が指摘するように欧州危機が終った後、市場の次の標的が日本になる確率はかなり高い。GDPの2倍もの借金を抱えているにも拘わらず、更に予算の半分以上を借金する国なぞ世界のどこにも無い。もっと経済小国ならとっくに市場の餌食になっていた。
今まで、財政赤字を上回る国内貯蓄が市場の攻撃から守っていると言われてきた。だが、国内貯蓄の伸び悩みと経常黒字が縮小する傾向は避けられそうもない。このトレンドが続くと5年後には日本の国内貯蓄と財政赤字が均衡する、つまり国は借金を国内から調達できなくなると多くの専門家は指摘する。
Xデー
5年間猶予があると決して思うべきではない。政治が進まないと市場の信頼を失った時がXデーだ。欧州危機の後、日本が標的にならない為に残された時間は少ない。最悪の場合、今年日本が破綻しないという保証はない。ある大手のヘッジファンドは虎視眈々と日本国債の仕掛けのタイミングを狙っているといわれている。彼等はインバランスが商売のタネであり、日本の財政赤字は世界一のインバランスである。
とはいっても、Xデーは欧州危機が決着してからと私は予測する。昨日の日本経済新聞のコラム「地球回覧」に「メルコジの罪と罰」と題した面白い記事があった。フランスが国家主権に執着して財政規律を緩め、ドイツが共同債の道筋を示すのを拒む、メルコジが互いに都合の悪い話を遠慮しあう結果、規律も統合も大して進まない野心の低い合意でお茶を濁す。
痛みを分かち合えるか、それとも・・・
メルコジこそが危機を長引かせる原因の一つであり、長引く欧州危機は彼らの失敗の方程式に集約されていると指摘していた。私は読んでて言葉を入れ替えると日本に当てはまると思った。「メルコジ(=与野党)が互いに本気で痛みを分かち合う覚悟がなければ、抜本策はいつまでも示せない。」ぴったりではないか。
だが、最近になって国家破綻も避けられないのならそれでも良いかと思うようになった。リーマン・ショックや大震災でも既得権益やバラマキが改善されず政治が進まない状況を見て、いっそ国が破綻して原資が全くなくなり無駄を省いたお金の使い方に戻るのも悪くないと。決してやけくそではない。そうなった時の日本は強いという別の信頼感がある。個人的には最悪ケースに備えなければならないが。■