衆院選に続いて18日に行われたドイツの総選挙は対照的な結果となった。事前に圧倒的優勢が伝えられたメルケル党首率いるキリスト教民主同盟(CDU)が過半数の議席を獲得できず、その後も依然として首班指名できない混乱状態が続いている。
日本とドイツは第二次世界対戦後奇跡の復興をとげ、10年前までは米国とともに世界経済を引っ張る機関車といわれていた。最近は中国・インドの急成長に隠れ世界の中でプレゼンスを失いつつある。日独の保守的な企業風土と痛みを伴う構造改革を先送りして来たのが凋落の原因と指摘され続けてきた。
世界は今回の両国の選挙を経済のあり方を根本的に改めることが出来るかどうかの戦後最も重要な選挙と見て注目した。選挙結果は、日本国民は構造改革を圧倒的に支持し、ドイツ国民は急激な改革による痛みを恐れ戸惑い、明確な意思表示をしないという全く異なったものになった。私は選挙戦略の巧拙と両国民の意識の差が結果を分けたのではないかと思う。
小泉首相は郵政民営化を一本絞り争点を単純化して選挙を戦ったが、メルケル党首は大胆にも国民負担を明確に打ち出して税金・医療・年金改革を訴えたのが裏目に出たと思われる。メルケル党首は直前の党首討論の出来が良くなかったといわれているが、それでも過半数は取れると予想されていた。詳細に政策を訴えるドイツ選挙といえども余りに痛みを前面に出すのは適切な選挙戦術ではなかった。
もう一つが国民の意識の差である。日本国民は特定団体の既得権益をベースにした現行の政策決定プロセスをシャッフルしたいという強い意識があった。一方、ドイツ国民は政治不信は無く、政策を理屈では分かっているが自らの既得権益を失うことへの恐怖感が最終的に投票結果を左右したと信じる。
ドイツは週35時間労働を最初に勝ち取った国で、労働者はこの権利を守るため如何なる変更に徹底的に反対してきた。しかし、冷戦終結後東西ドイツの統合・グローバリゼーションの進行を経てドイツの労働者は徐々に競争力を失い、企業は安価な労働力を求めて海外に仕事を流失させ二桁の失業率が続くに至った。日本と同様、臨時雇用が増え正社員の比率が低下している。遂にこの夏多くの組合員を抱える建設組合は給与を上げず40時間労働を認めるなどの動きが出、他の組合にも波及している。
日本の民間企業はバブル崩壊後の失われた10年を経てこの数年構造改革が進み、小泉政権後の政治改革で国民の痛みに対する覚悟が醸成された。しかし、ドイツは懸命にもプラザ合意後のバブル発生を避けたが故に、皮肉にもその後のグローバリゼーションに対応した構造改革の痛みに対する準備が出来てなかったのではないだろうか。更に厳しいことを言うなら、失業してもセーフティ・ネットがしっかりして困らない仕組みが確立されており、それが故に労働意欲の減退が進み、これが既得権益化していることである。
構造改革の先送りはドイツだけで無く欧州全体の経済回復を遅らせることになる。中国・インドに追い上げられ競争力をなくした製造業の足を引っ張り、更に新産業の育成による経済の活性化を遅らせ、ドイツを語る時「失われたX年」とか「日本病」とか言われる羽目になってしまう恐れがある。■
日本とドイツは第二次世界対戦後奇跡の復興をとげ、10年前までは米国とともに世界経済を引っ張る機関車といわれていた。最近は中国・インドの急成長に隠れ世界の中でプレゼンスを失いつつある。日独の保守的な企業風土と痛みを伴う構造改革を先送りして来たのが凋落の原因と指摘され続けてきた。
世界は今回の両国の選挙を経済のあり方を根本的に改めることが出来るかどうかの戦後最も重要な選挙と見て注目した。選挙結果は、日本国民は構造改革を圧倒的に支持し、ドイツ国民は急激な改革による痛みを恐れ戸惑い、明確な意思表示をしないという全く異なったものになった。私は選挙戦略の巧拙と両国民の意識の差が結果を分けたのではないかと思う。
小泉首相は郵政民営化を一本絞り争点を単純化して選挙を戦ったが、メルケル党首は大胆にも国民負担を明確に打ち出して税金・医療・年金改革を訴えたのが裏目に出たと思われる。メルケル党首は直前の党首討論の出来が良くなかったといわれているが、それでも過半数は取れると予想されていた。詳細に政策を訴えるドイツ選挙といえども余りに痛みを前面に出すのは適切な選挙戦術ではなかった。
もう一つが国民の意識の差である。日本国民は特定団体の既得権益をベースにした現行の政策決定プロセスをシャッフルしたいという強い意識があった。一方、ドイツ国民は政治不信は無く、政策を理屈では分かっているが自らの既得権益を失うことへの恐怖感が最終的に投票結果を左右したと信じる。
ドイツは週35時間労働を最初に勝ち取った国で、労働者はこの権利を守るため如何なる変更に徹底的に反対してきた。しかし、冷戦終結後東西ドイツの統合・グローバリゼーションの進行を経てドイツの労働者は徐々に競争力を失い、企業は安価な労働力を求めて海外に仕事を流失させ二桁の失業率が続くに至った。日本と同様、臨時雇用が増え正社員の比率が低下している。遂にこの夏多くの組合員を抱える建設組合は給与を上げず40時間労働を認めるなどの動きが出、他の組合にも波及している。
日本の民間企業はバブル崩壊後の失われた10年を経てこの数年構造改革が進み、小泉政権後の政治改革で国民の痛みに対する覚悟が醸成された。しかし、ドイツは懸命にもプラザ合意後のバブル発生を避けたが故に、皮肉にもその後のグローバリゼーションに対応した構造改革の痛みに対する準備が出来てなかったのではないだろうか。更に厳しいことを言うなら、失業してもセーフティ・ネットがしっかりして困らない仕組みが確立されており、それが故に労働意欲の減退が進み、これが既得権益化していることである。
構造改革の先送りはドイツだけで無く欧州全体の経済回復を遅らせることになる。中国・インドに追い上げられ競争力をなくした製造業の足を引っ張り、更に新産業の育成による経済の活性化を遅らせ、ドイツを語る時「失われたX年」とか「日本病」とか言われる羽目になってしまう恐れがある。■