今回から古本屋で手に入れた本の紹介をするのに相応しい表題「周回遅れの読書」に変更しました。こんな本でも探せばコイン1枚で手に入るのかと思っていただければ私の狙いの半分は達成されます。ブックオフ様さまです。
今回のお勧めは経済学の学会でなく実践の世界の二人の巨人ガルブレイスの最近の小論文とドラッカー全著作の評論です。市場原理主義と対極にあるのがガルブレイス、その中間にドラッカーがいる。グローバリゼーションの真っ只中で漂流し自分を見失った時原点に戻してくれる。
その他のお勧めは「リベラルマインド」(西部邁)と「金融工学とは何か」(刈谷武昭)。「リベラルマインド」は世の中の動きの根底に何があるか、表面的な報道に左右されない考え。「金融工学・・・」は詳細な議論より、全体を通してグローバリゼーションの基本コンセプトを理解に役立つ。
実はもっと楽しめた本がある。「反社会学講座」は皮肉たっぷりのパロディ本といってもいい、まともな出版社が扱いそうもないC級本だが(失礼)、個人的に4.0をつけたい。私の波長と同期しているので「嵌まった」という感じだ。
(2.0)日本人の価値観・世界のランキング 高橋徹 2003 中公新書ラクレ 文字通り様々な事柄に対する日本人と世界の国々の人がどう考えているのかデータと簡単なコメントがある。日本人は愛国心と戦争に行くかについて最下位、親子関係は最下位グループ、仕事に対する考え方等が世界の平均とは大きく異なる。人々の意識が今日の争点の伏線となっている貴重なデータである。
(1.5)ソシオロジー事始め 中野秀一郎 1999 有斐閣 社会学を目指す大学生の入門書、学生の間でよく読まれているらしい。息子との会話のため読んだが・・・
(2.0)反社会学講座 パオロ・マッツァリーノ 2004 イースト・プレス 著者の皮肉に3分おきに声を立てて笑った。C級映画にはまる心境だ。最初に私も取り上げたことがある少年犯罪急増のデータの嘘を暴くところから始めている。クライマックスは「ふれあい王国」のくだりで私の皮肉琴線がぶち切れそうに鳴った。
(2.0-)子供の社会力 門脇厚司1999 岩波新書 子供は元々本能的に社会力があるが、それが周りの環境と接して機能する力は2歳頃までに基礎が作られるという。それが核家族化で多様な人間関係が失われ「すぐに切れる」とか「集中できない」とか社会性の欠如した子供が増えたと説く。その対策として父親と地域の役割を復活することが重要という。今日のいじめ問題に通じる。
(1.5)報道の自由が危ない 飯室勝彦 2004 花伝社 報道の自由の主張の論理は理解するが、良質の報道を求める姿勢を感じないのは寂しい。悪貨は良貨を駆逐し、悪貨の為に報道の自由が制限されるのは現実だ。日本メディアの報道の自由の理念と連帯感の欠如の指摘は鋭い。個人と報道の権利のぶつかりに対する判例の分析は異なった見方が参考になる。
(0.5)政治記者奮闘記 三反園訓 2003 ダイヤモンド社 テレビで見る著者の辛口コメントは影を潜め、政治記者特有の業界ネタで終始したやっつけ仕事。著者が何を考えているか分からない。
(1.5+)日中ビジネス摩擦 青樹明子 2003 新潮新書 著者の実生活で体験した異文化間の摩擦だけに説得力はある。中国人の悪習がその国の政治経済的潜在力の巨大さの為、無意識下で著者(日本も世界も)の見る目が甘くなるのは、人の性ではあるが読んで悲しくなる。
(2.0)人口ピラミッドがひっくり返るとき P.ウォーレス 2001 草思社 実は人類共通の悩みである人口構成の変化が経済から文化までどう影響するか予測している。著者にかかると全てはデモグラフィーで説明できるから不思議だ。各世代の意識が政治経済や文化を作るという。ベビーブーマー世代が老いてバイアグラが生まれたというのは意表をつかれた。
(2.5)悪意なき欺瞞 JKガルブレイス 2004 ダイヤモンド社 尊敬する経済学の巨人がここまで言うかという程の反・新保守派経済学(‘新古典派’とも言う不可思議な名前)とはこれを読むまで知らなかった。小論文だが簡潔かつ端的で日頃市場万能に傾く思索の反省の糧にしたい。
(2.5+)マネジメントを発明した男ドラッカー Jビーティ 1998 ダイヤモンド社 原題「ドラッカーの見た世界」(仮題)よりも本題のほうが断然良い。会社勤めの頃から尊敬する経済学者の一人で、著者のドラッカー批判はそのまま私にも当てはまる。「見えざる手」に代わり「見えざる良心」を唱えるドラッカー理論のベースは政治や歴史を無視する姿勢を補っていると思う。
(2.0)反グローバリズム 金子勝 1999 岩波書店 私は著者に賛成しない、結論に至る論理もマイナス面を強調する姿勢にも。しかし、グローバリゼーションに道徳はなく、それがもたらす市場の誤りに対するアプローチはポイントをついたものがある。
(3.0-)リベラルマインド 西部邁 1993 学習研究社 著者特有の難解な言い回しで本質に迫る。最初奇妙に聞こえた戦後自民党政治は実は社会民主主義だったという主張は今やコモンセンスとなった。マスコミの扇情的な報道がリンチにまでエスカレートする原理を明らかにし、政治家の利益誘導が結局は多数派民衆の精神的資質に依存すると説く。15年経った今も一読に値する。
(2.0-)反米の理由 Zサーダー・MWデービス 2003 ネコ・パブリッシング 原典か翻訳のせいか文章が難解で疲労感が残る。米国が嫌われる理由は元を辿れば十字軍以来の西欧とイスラムの対立が米国に移植された為で、米国のハンバーグから映画、IMF/WTOまで巨大な存在と影響力が嫌悪される対象という。背景に欧州の懐疑主義、文化的優越性、妬みを感じる。
(2.5)金融工学とは何か 刈屋武昭 2000 岩波新書 これを読むとグローバリゼーションを支える論理的支柱が金融にあると理解できる。その基本はマクロ的リスク管理であり、資本効率を悪化させるリスクがあると、水が低きに流れるように新しい金融商品がリスク配分を変える裁定が起こるという。資本効率は古典物理学における重力の如く大前提であることから始まる。
(1.5+)バランスシート再建の経済学 深尾光洋他 2001 東洋経済 景気回復は不良債権の早急な処理であることを小林慶二郎氏の複雑系ディスファンクション理論と、具体的な施策、米国の実例を用いて説いている。殆どは小泉改革で議論され実現されたのでやや新鮮味に欠ける。
(1.5)定年後をパソコンと暮らす 加藤仁 2004 文春新書 著者は3000人にインタビューしたそうだ。本書で取り上げられたのはパソコンを使って第二の人生に生き甲斐を見つけられた利他的な人達で、私のような利己心の塊にはちょっと到達できない領域だ。
(1.5-)ローマはなぜ滅んだか 弓削達 1989 講談社 ローマ帝国文明の要素を説明しているが時間軸と連関が明確で無く、それがなぜ結論に至るのか私には不明。最後の章で突然、滅亡の理由は中央(ローマ)と周辺(ゲルマン)が逆転した為だという。塩野さんのような帝国に対する愛情が感じられないせいか。
(2.5)ダ・ビンチ・コード(上・下) Dブラウン 2004 角川書店 2003年米国でベストセラーになり翌年も凄い売れ行きで、秘書だった米国人も一読を勧めてくれた。アマゾンをチェックすると一時古本の値段が上がっており驚いた。邦訳が書店にうず高く積まれているのを見て天邪鬼心が出て買わなかった。市立図書館では貸出待ちが何十人もいた。終に中古本が105円になり周回遅れとなる。世界中でベストセラーになったのだから面白いに決まっている、コメントすることも無い。■