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り返ると冷戦終結後の世界が経験した9.11を挟んだ二つの段階には、共通する極めて強い力があった。それは堰が開き低きに流れる水がごとく世界を巡り雪だるま式に増殖したグローバル資本である。そのグローバル資本が中国やインドに力を与え、石油を暴騰させ、ロシアを生き返らせた。今回はグローバリゼーションの勝者と敗者について語りたい。
資本集積の多様化
9.11後の第2段階でテロとの戦いが続く間も米国、日・欧、東アジア諸国に順繰りに富をもたらしたグローバリゼーションは中国とインドに到着した。たまたまではなく効率よくリターンを期待できる国と判断されて集中的に投資され、両国は驚異的な速度で経済成長を始めた。
従来と異なるのはITによって中国とインドが企業活動の一部に密接に組み込まれ一体となってダイナミックに機能した。かつてのように経済成長に必要な全ての条件が揃う必要は無かった。グローバル企業のビジネス・プロセスの一部を切り出し安価に代替することが可能になったからだ。
両国は輸出依存型ではあるが、中流階級層の厚みが増すに連れ巨大な潜在市場が控えている。中国の自動車市場や外貨準備高は日本を抜き世界一となった。一方、中国・インドの経済成長は、先進諸国の省エネルギー努力の結果長らく低価格に抑えられていた石油を始めとする資源価格の暴騰を招き、中東に加えロシア・中南米の資源国に資本の集積が起こった。
共通のキーワードは資本の自己増殖力
資本集積国が多様化しても結局投資効率のいいニューヨーク市場に還流(投資)され、ヘッジファンドを含む金融機関を経由して急激に需要が高まった商品市場に再投資され更に資源暴騰を増幅し、資本が集積される循環が起こり、資源国に巨額の資本が集積される仕組みが働いた。
前記に共通するのは集積された資本が、最も効率が高い投資目標を求めて凄まじい力と速度で世界を駆け巡り自己増殖して行く過程で富の偏在をもたらし紛争を起こし、地政学のバランスを変えてきた事である。資本自身には道徳も規律もない、ただ効率のみを追い求める性格が金融工学とITを活用して磨かれ徹底して実行された結果である。
民主化のドミノは一進一退
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主化の動きは余りにも弱々しかった。ソ連が崩壊し資本のグローバリゼーションが加速した時、人々は同時に民主主義のグローバリゼーションを期待した。しかし、資本のグローバリゼーションはそれ自身の強い自己増殖性向で世界を圧したが、民主主義には国境を乗り越えるほどの駆動力がなかった。
民主的に選挙で選ばれた政府が韓国・台湾からフィリピン・インドネシアまでアジア諸国に生まれた時、グローバリゼーションと並行して民主化のドミノが起こりつつあるという期待があった。しかし、その後の展開は民主主義にとって国境は乗り越えられない高さのままだった。むしろ中国の共産党一党独裁のほうが資本のグローバリゼーションに効率よく対処できた。
経済成長と民主化は必須条件か
非民主主義の途上国が経済発展し中流階級がある比率を越えると、政治体制の民主化が起こるというある意味楽観的な説が語られてきた。それが共産党独裁の中国にも積極的に投資し支援することに対する資本の論理とは別の世界の言い訳であった。メディアは国内とは別の基準で中国の言論の自由・人権侵害から知財保護違反まで温かい目で見守り政府に関係改善を求めた。
今までのところ中国の経済的成功は必ずしも民主化と相関関係があるとは言えない。一方で共産党独裁の政治体制の方がむしろ資本のグローバリゼーションに有効にフィットしているかに見える。エネルギー暴騰により台頭したのは非民主主義国や独裁国家であった。ベルリンの壁崩壊は資本主義の勝利ではあっても、必ずしも民主主義の勝利とはいえなかった。
グローバリゼーションは民主主義を弱めたか
この問いに明確な答えが見つからない。結果論から言えば今のところグローバリゼーションの勝者は市場(資本)、敗者は民主主義である。冷戦後の無邪気な希望は既に消えうせた。元仏大統領顧問のアタリ氏は「放っておくと市場経済が民主主義を駆逐して民主主義が廃れる恐れがある。」しかし、「公平さの低下は市場経済のせいではない、民主主義が弱すぎるからだ。」という(日本経済新聞1月13日)。
グローバリゼーションは5000年も続いたフィリピンの薬草医療を解明して特許化し製薬会社が独占し、原住民が利用出来ないような馬鹿なことをする。米国の二重基準はアラブや南米の資源国の貧富の差を拡大させた。その米国の二重基準さえ満たさない資源を持つ圧制国家の独裁者や特権階級には、中国はエネルギーに代えて資金と武器を与え彼等を延命させ国民を搾取するのを支援している。冷戦終結後の希望を語ることすら最早無くなった。■