急増する世界の億万長者
メリルリンチの調査によると資産が100万ドル(1億円強)以上の人の数が昨年6%の60万人増え、1千万人を超えたそうだ。彼等の総資産額は9%増えて41兆ドルになったと一昨日APは伝えた。平均資産額は400万ドル(約4.3億円)になるという。サブプライム問題と原油高の打撃を受けて億万長者の増加率は一作年の8%増から6%増に、それらはより安定な投資先に向かっているという。
注目すべきは彼等の資産増加の速度が世界経済成長の速度を上回っており、今後もその傾向が続くと専門家は見ている。言い換えると世界的に金持ちはより金持ちになり益々格差が開いている。日本だけではない。更に資産総額が30億円を超えるいわゆるスーパーリッチと言われる人達は9%増えて約10万人になり、その資産総額は15%増えたという。又、急成長しているBRICsの富裕層が増えている。
急増する産油国への所得流出
その背景には昨今の原油高がある。昨日の日本経済新聞は原油価格がこのままバレル140ドルで推移したら石油消費国から産油国に年間約200兆円の所得移転が起こる見込みと伝えた。そのうち消費国の欧・米・アジアが夫々60兆円弱、日本が24兆円支払い、一方産油国の中東が100兆円、旧ソ連圏が40兆円受け取る。
世界第2位のGDPを占める日本の国家予算が80兆円であることを考えると、膨大な規模での所得移転がたった1年で起こっていることの凄さが実感できる。私は専門家ではないが、これほどの規模の富の移転がこれほど短期間に史上起こったことはないのではないかと思う。この背景の下で、世界で億万長者が増えていると解釈すべきだろう。
昨年11月に「原油高と富の移転」と題して、この世界的で劇的な資金の流れの変化と富の集積を書いた(下記URL)。その時は年間100兆円の規模で富の移転が起こると警告した積りだった。それが瞬く間に倍の200兆円に膨れ上がった。予想以上の速さで富の移転が起こっている。こんなことが長続きするはずないと思うが、昨今は原油価格が200ドルに上昇するとの予測も現実味が出てきた。
http://blog.goo.ne.jp/ikedaathome/d/20071111
これだけ石油やその他の資源価格が高騰すると、持てる国と持たざる国には際立った差が出てくる。急成長してきたBRICsといえども、今年に入り資源国のロシア・ブラジルの株価が上昇を続けているのに対し、中国・インドの株価は大きく値を下げ多くの投資家を嘆かしているはずだ。
還流するオイルマネー
富が向かっている国は中東・旧ソ連・南米など所謂民主主義国ではない。富の配分は消費国に比べ公平ではなく、短期間に限られた人達の下に巨額の富が集中しつつある。彼らの一部は世界でエキセントリックな投資を行い、注目を浴びている。富裕層の増大に加え、政府系ファンド(SWF)の存在感が益々大きくなっている。
膨れ上がった政府系ファンド資金はサブプライム問題で傷ついた欧米の金融機関の救済に向かい、不安視されていた政治的な運用など不透明性についての指摘に応えている。だが、今後更に投資先を拡げ企業買収ファンドに巨額の資金提供をして存在感を高め、それがための摩擦が増えると予測される。
結局のところ、オイルマネーは効率的な資金運用を求めて欧米に還流される可能性が高い。その構造が維持される限り、多少摩擦があっても欧米にオイルマネーが還流し続ける可能性が高い。その結果、原油高騰が落ち着いた時点で産油国は欧米の多くの主要金融機関や企業の意思決定を左右し、今よりもっと表立って政治的影響力を持つ可能性が高い。欧米は短期的には資金還流が一定の枠内で維持される限りこの状況を許容すると私は予測する。
「ルール・メーカー」か「持てる者連合」
このパワーシフトは政治経済の領域に限られない。文化やスポーツもお金とも関わりは無視できない、パワーシフトが起こるだろう。今回のユーロ杯ではロシアが大活躍した。ロシアの選手は国内リーグの選手で、欧州リーグで揉まれて強くなったのではない。指導者や施設に金をかけ優秀な選手が集めると良い結果が出た。同じ意味で中東のサッカーが今後更に強くなるだろう。
軍事面では米国が唯一のスーパーパワーであることに変わりがないのだが、イラク戦争の失敗は米国の圧倒的な軍事力が「富の移転がもたらす新たなパラダイム形成」に無力であることを露呈したように感じる。投機資金の資源市場への流入抑制、排出削減目標設定など世界的な問題で米国がリーダーシップを発揮しえなかったのは予想外だった。そのキーワードはお金だ。
だが、このパワーシフトが長く続かないほうに私は賭けたい。それは熱戦でも冷戦でもなく、テロとの戦のように国対国ではない新種の戦争だろう。それはマネーゲームという戦いの場でのルールの戦いになり、勝者は(1)欧米のルール・メーカーか、(2)消費国・資源国という枠を超えた持てる者の連合になると予測する。国としては勝ったか負けたか分からない、最悪ケースシナリオとしては民主主義の勝利ではないかもしれない。
そして日本は・・・
我が国は幸か不幸か現在のところこのオイルマネー還流構造の外に取り残されている。後期高齢者保険や拉致問題に熱中している間にも、GDP比5.3%の巨額の富が石油代金の支払いで流出(欧3.7%、米4.2%)していると日本経済新聞(6/28)は伝えている。
産油国に車など工業製品を輸出して約10兆円が日本に戻ってきているが、このままでは貿易収支の悪化は避けられない。規制や経営者の排他的な姿勢が日本市場の魅力をなくし、オイルマネーはまだしも自国の個人資産すら他の国に向かっているのをどう理解すべきなのだろう。■