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ブプライム問題に端を発した世界連鎖株安・信用不安は新しい段階に入ると今月20日に予測した。米連銀は短期金利を下げ、欧州銀行や日銀は予定されていた金利上昇を据え置き、連携して資金注入し信用不安の解消に努めた結果、日本を除く世界の株式市場は2ヶ月ぶりに一応回復した。
しかし、私は解決ではなく新たな段階へと見做した。それは中央銀行の対策は根本解決ではなく当座凌ぎの対症療法であり、世界金融システムを変えるような変化が今後起こる可能性を感じたからに他ならない。それは具体的に何か、可能性を議論するのが今回の目的である。
何時もの大胆予測より不確かな確度0.1-0.2程度の、想像力を思い切り働かした素人の俗説であることをお断りしておきたい。私自身の頭の体操的発想であり、話半分ではなく百に一つ程度の可能性だ。こなれていない考えを整理するだけでも現状の理解に役立つことを期待したい。
状況認識1: 長引くサブプライム問題、堅調な途上国経済
米国の住宅価格低下が続くとサブプライムローンの焦げ付きは更に悪化するのは間違いないだろう。現在予測されている32兆円から、最悪の場合80兆円規模まで拡大の恐れがあると見られている。しかも日本のバブル崩壊の教訓から資産価格が暴落し破綻を伴う処理を急ぐ訳には行かず(大前研一氏)問題は長引くのは避けられそうも無い。
結果として米国GDPの7割を占める消費の停滞は避けられず、ただでさえ2%に押し下げられた米国経済成長率予測が更に低下し、世界経済への悪影響が憂慮される。既に2007年の世界経済成長率が0.5%押し下げられ4%程度になる(IMF)と見られている。
一方で98年のアジア通貨危機と01年のITバブル崩壊時と異なり、アジア、エマージング諸国の経済は堅調である。中国株価は7月末の世界連鎖株安発生時に急落したものの短期間に値を戻し、その後も株価は天井知らずで驚異的に伸びている。
中国ばかりではない。その他の国々の株価も後を追って史上最高値を付けている。その理由は貿易の米国依存低下と、アジア各国の外貨準備高が98年とでは異なり通貨危機に対応できるようになったことである。日本も中国およびアジア諸国との貿易額が対米貿易額を上回った。
状況認識2: ドル追随を止め始めた途上国通貨
注目すべきは連銀が短期金利を大幅に下げたとき、サウジなどドル・ペッグした通貨国の多くが追随せず金利を据え置いたことである。つまり、ドルの価値が下がっても放置し自国の通貨高を認めるという政策変更だ。
これらの国は米国債の大量保有国であり、このままでは今後も米国債を買い続け米国の赤字を補填してくれる保証が無い構図が出来上がりつつあることを意味する。結果としてサブプライム問題は基軸通貨国としての米国の影響力の低下を加速させ、由々しき事態が生じていると見なす事が出来る。
単に米国の影響力低下という捉え方は不十分かもしれない。日本経済新聞はずっと先のことと思われていた日中逆転が早くも2010年に起こる予測をしている。米国が主導してきた日米欧主体の国際金融体制、所謂「ブレトンウッズ体制」が変化し適切に機能しなくなった。世界経済の重心がシフトし水面下から浮上し始めた。
仮説: 米国の次の手は統合金融システム?
米国政府及び連銀は対症療法を処方しただけで、根本処置にはまだ手を付けていない。22日のNYタイムズは日金融商品の不透明性、ヘッジファンドとプライベートファンドの取引監視の必要性を主張している。前々からの私の主張でもあるが、米国はそれ以上のことを考えていると思う。
米国影響力の低下、中国・インド等途上国の急成長、EUの拡大と日本プレゼンスの低落等々世界経済の風景は急激に変化している。同時進行でグローバル金融システムは国境を越えて密接に連携を強めている中、サブプライムを発端に現行の仕組みがもたらす深刻な問題が起こった。
米国はこういう潮目が変わった時新しい経済秩序をもたらし、かつ自国に都合の好いパラダイムを作り出してきた。大西洋と太平洋をはさんで欧日と政治・経済の安定・発展をもたらす同盟関係を構築し、世界の富を米国に還流させるシステムを確立した。
元々米国のみが超大国という世界では、米国だけに都合が好いとは言い切れないシステムであり、他に良い代案があったとはいえない普遍性があった。特に90年代からIT連携して金融技術とNY市場の先進性とヘッジファンドやプライベートファンドの組み合わせは、金余り世界の受け皿になりリスク領域に資本を行渡らせ今日のグローバル経済の発展に貢献した。
米国はこの機会に「受け皿の改革」をやる積りというのが私の直感だ。サブプライム問題の根本対策を打つ時、それは同時にグローバル金融システムのパラダイムを変えるものになるというのが本仮説の趣旨である。正直具体的には分からないが、多分以下のような性格のものだろう。
それは汎ゆる資産がITで統合され24時間取引され、徹底して透明で効率的なプロセスになる。途上国に参加を動機付けるアメとムチがあり、結果的に資本が米国を通過する巧妙な仕組みを内在させたものになるはずだ。各国はそれに気付くが、今回もそれより優れた代案を提示できず受け入れることになると言うのが私の読みだ。
世界は当面米国の覇権が続くことを望み現状を変えたいとは思っていない。アメやムチは基本的に米国市場や技術の先進性に対するアクセスとなるだろう。その第一手はサブプライム問題の国内向け根本対策の形で現れるだろう。但し、中国とインドの国内市場が育つ前でないとアメもムチも効かなくなり、残された時間はそれほど長くはない。ここ数年内の話だ。
余談
我国は現行システムから大きな利益を享受してきた。しかし、プレゼンスの低下に留まらず内向きの性格を取らざるを得ない政治環境下で、新金融システムの構築に貢献し果実を手に入れることが出来るだろうか。最大の減速要因は官僚だろう。「いつか来た道」を辿る恐れは十分ある。しかし希望もある、改革のスピードアップ出来れば膨大な個人資産の威力と知恵は十分使える武器だと思う。■