見もの・読みもの日記

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男の世界/禅の文化(東京国立博物館)

2007-08-12 00:40:12 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館 足利義満六百年御忌記念『京都五山 禅の文化』展

http://www.tnm.go.jp/

 京都五山とは、鎌倉五山に倣って足利将軍家が定めた禅宗(臨済宗)の寺格制度。南禅寺を別格として、天龍寺、相国寺、建仁寺、東福寺、万寿寺と続く。おや、最後の万寿寺だけ行ったことがないぞ、と思ったら、現在は東福寺の塔頭のひとつだが、拝観はできないそうだ。

 展覧会場の第一印象は、「う~んシブい」に尽きる。同じ”仏教もの”でも、天平彫刻とか密教美術とか浄土教美術には、たおやかな華がある。それに比べると、私が禅宗に抱いているイメージは「男の世界」である。女性的なもの・母性的なものが、巧妙に排除されていると感じるのだ。羅漢図とか禅僧の肖像って、個性的といえば聞こえがいいが、伸ばした爪とか長すぎる眉毛とか、どうしてあんなに身体的な醜怪さを強調するのかなあ。やっぱり、古代的な調和に満ちた美しいものを信じ切れなくなった時代の要請なのかしら。

 絵画に比べると、肖像彫刻は、さほど醜怪さが強調されていなくてよい。ひたすらモデルの内面に食い入ろうとする迫真力に気圧されるばかりだ。龍吟庵蔵の「無関普門坐像」(13世紀、京都禅宗寺院では最古の肖像彫刻)は、世界的にもハイレベルな肖像彫刻なのではないか。

 禅僧の書は面白い。死の直前に書き残す「遺偈(ゆいげ)」というのが興味深かった。書いてある内容は分からなくても、字体が自ずとその人の最期のありさまを物語る。春屋妙葩(しゅんおくみょうは)の遺偈なんて、もうよれよれであるが、散らばった字体が微笑ましい。清拙正澄(せいせつしょうしょう)の遺偈は、闊達で、まだ力がある。

 第一会場の後半に、伝牧谿筆『龍虎図』2幅があるが、これには笑った。上唇のめくれた三白眼の龍といい、口をへの字に結んだ虎といい、やたらに人相(?)が悪いのだ。それから留学僧によってもたらされた『宋拓輿地図』(中国とその周辺地図)には、時間を忘れて見入ってしまった。西に「陽関」「沙州」、南に「身毒」「滇国」、北に「東京」(金国である)、そして「東海」上には「日本」「毛人」など、興味深い地名がびっしり書かれている。

 第二会場は伝周文筆『竹斎読書図』と雪舟の『破墨山水図』、2点の国宝に迎えられて始まる。雪舟、やっぱりいいなあ~。後半に進むと、珍しい雪舟の仏画も見られる。伝周文筆『山水図屏風』は素晴らしくよくて、さすが収蔵元の大和文華館の見識の高さを感ずる。愚谿右慧(ぐけいうけい)筆『釈迦三尊図』は、かなりヘンな絵だった。中尊の釈迦は、おとなしくうずくまった(!)龍の上に座っている。作者は初めて聞いた名前だが、覚えておきたいと思う。名作の多い書画に比べると、仏像はいまいち。見るべきは「地蔵菩薩坐像」(山口・東隆寺)くらいか。

 会場の最後に「卓袱(テーブルかけ)(草花鳥獣文刺繍)」がある。横目に見て通り過ぎていく人も多かったが、ぜひ足を止めてほしい。一見地味だが、よく見ると、楽しい鳥獣文が刺繍で表されている。鹿も象も、花木に隠れたウサギも小鳥も、みんな楽しそうだ(私のお気に入りは黒ヤギ)。これぞパラダイス。ふと若冲の「鳥獣花木図屏風」は、こんな作品をもとに構想されたのではないか、と思った。あれっ、ストイックな男の世界だったはずなのに...
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