見もの・読みもの日記

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科学と妄想を語れ!/怪力乱神(加藤徹)

2007-09-09 23:30:49 | 読んだもの(書籍)
○加藤徹『怪力乱神』 中央公論新社 2007.8

 中国ネタが続くけど、ご容赦。全くの偶然である。先日、北方謙三『楊家将』の解説者として紹介した加藤徹さんの新刊を見つけた。表紙がカラフルでかわいいな~と思ったら、南伸坊さんの装丁である。好いな~ボッシュの絵画に出てきそうな怪物たちの元ネタは何だろう?

 「怪力乱神を語らず」は、もちろんあまりにも有名な孔子の言葉。超自然的なことに関心を払わないのが、中国の思想・文学の規範的な態度とされてきた。にもかかわらず、中国の諸書を丹念に読んでみると、ゾクゾクするような怪異と幻想が、多数著録されているのである。

 ――というフリで始まる本書であるが、最初はあまり面白くない。『論語』の「怪力乱神」の説明から始まるあたりは、サラリーマン向きの教養読みものみたいで気が乗らなかったのだが、だんだん怪しい世界に入っていく。『列子』とか『淮南子』ってすごいなー。『韓非子』もいいなー。『荘子』の一字一句に込められたイメージ喚起力って、あらためてすごいと思った(たとえば「北冥有魚、其名為鯤」の「鯤」は、小さな魚の巨大な群れを意味するという)。

 著者は中国古典(原則として、原文=白文/読み下し文/現代語訳の三種を掲げているのが有り難い)の隣りに、日本の伝説、近代文学、自然科学の数式など、連想するものを自由に並べていて、これらが興を添える。実は、達磨にまつわる「慧可断臂」の物語をきちんと知ったのは初めて。著者の自由な語り口が非常に印象的である。また女の鳥形霊「精衛」の伝説(出『山海経』)から、ロボット博士西村真琴と魯迅の交友に及ぶ段も興味深い。

 私がいくぶん残念に思ったのは、澁澤龍彦への言及がないこと。アンドロイドの創作者「偃師」(出『列子』)、宝石の涙を流す人魚「鮫人」(唐詩など)。私は彼らの存在に、澁澤が晩年に書いた小説でめぐり合い、緻密な漢文脈が作り出す、蠱惑的な幻想をはじめて知ったのである。

 中国人の大好きな凧も、古代には脅威のハイテクだった(ヨーロッパでは16世紀以前に凧は知られていなかった)。BC4世紀の墨子は凧を軍事技術として用いたとされる。後漢の張衡には模型飛行機の伝説がある。あと、中国の宇宙論も意外とすごい。「宣夜説」というのは、一種の宇宙無限説である。いま、その箇所を見つけられないのだが、「空が青いのは、その色が付いているのか、果てしないためか」云々という文章があって、これにも感銘を受けた。
コメント
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