見もの・読みもの日記

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伊万里焼の展開/いろゑうるはし(戸栗美術館)

2008-08-17 23:48:40 | 行ったもの(美術館・見仏)
○戸栗美術館 『古伊万里展 いろゑうるはし』

http://www.toguri-museum.or.jp/

 江戸初期に焼成が始まった伊万里焼は、速いテンポで技術が進歩し、めまぐるしく流行が変わるので、私のような素人には、なかなか流れが掴みにくい。本展は、そのあたりを、厳選された作品で分かりやすく見せている。おおよそ、初期伊万里(1600-1650)→古九谷様式(1640-1670)→柿右衛門様式(1660-1700)→金襴手(1690-1740)と理解しておくことにした。

 伊万里焼における「色絵」の始まりは1640年代。すぐに古九谷と呼ばれる様式群が生み出される。明るい赤が特徴の祥瑞(しょんずい)手、やや暗めの五彩手、緑・黄・紫のベタ塗りで独特の世界をつくる青手が知られる。そして、柿右衛門の登場。柿右衛門といえば、乳白色の素地(濁し手)が特徴だが、染付を併用した場合は、本焼の釉薬が厚くなるので、いくぶん青みがかった素地になるそうだ。

 ほぉ~と思ったのは、1656年、清の順治帝が海禁令を発し、中国産磁器の輸出が期待できなくなると、オランダの東インド会社は、すばやく伊万里に着目し、1659年、有田は56,700個(!)の磁器の発注を受けている。うーむ。中国における政策転換が、そしてヨーロッパにおける東洋磁器の需要が、日本の地域産業の命運を決めたと言えるのではないかしら。経済のグローバリゼーションはもう始まっていたわけだ。小学生の頃に習った「江戸時代=鎖国」って、大ウソだなあ、と思った。

 私は、濃厚な色彩にぎらぎらした金を加えた金襴手は、あまり好きでないのだが、戸栗美術館の所蔵品は、佳品が多く、見ていて嫌にならない。『色絵獅子花文鉢』は緑のタータンチェック(に似た)文様が、細密だけどスッキリしていて愛らしい。見込の中央に描かれた獅子は、類例の思いつかない不思議な姿で、ポケモンに出てきそうである。欲しい。

 また、柿右衛門から金襴手への移行期の作品、というのが集められていて、なるほど、皿の半分は金襴手だが、半分は余白をたのしむ柿右衛門の趣向になっている。ちょっと鍋島ふうの洒落たデザインである。『柿鍋』(柿右衛門と鍋島の折衷的様式)という言葉もあるそうだ。輸出伊万里の、ある大皿(色絵花鳥文皿)は、白地に紺と赤で草花を描いた画面と、古九谷ふうに渦巻と鳥で埋め尽くした緑色の画面が、雲のように組み合わさっている。解説は、釉の縮みなどで生じた不都合を繕うための窮余の一策?と推量していたが、一度見たら忘れられないような、面白い作品である。「仁清手」と言って、伊万里なのに、京焼を意識した作品が作られていたことも初めて知った。

 なお、会場外の階段の壁に埋め込まれた展示ケースには、13代今泉今右衛門氏(1926-2001)の作品と、14代酒井田柿右衛門氏(1934-)の作品が、さりげなく飾られている。頂点までのぼりつめた伝統を、今日に継承する有田の町のすごさを感じることができる。有田、また行きたいなあ。
コメント
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