見もの・読みもの日記

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名品+知られざる名品/藝「大」コレクション(東京芸大大学美術館)

2017-08-17 23:17:17 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京芸大大学美術館 東京藝術大学創立130周年記念特別展『藝「大」コレクション パンドラの箱が開いた!』(2017年7月11日~9月10日)

 創立130周年を記念する大規模なコレクション展。国宝・重要文化財など、すでに知られた名品だけでなく、これまで日の目を見ることの少なかった卒業制作、模写、石膏像や写真・資料類にもスポットをあてることによって、藝大コレクションの豊富さ、多様さ、奥深さを紹介する。

 地下2階の第1会場は「名品編」から。入口を入ると、正面のガラスケースに破損の激しい月光菩薩坐像がおいでになる。上半身と下半身が分断され、両腕と腰まわりを完全に失った破損像だが、天平の気品と色気は失われていない。少し離れた背景の2点の絵画、黒田清輝『婦人像(厨房)』と小倉遊亀『径』が一緒に目に飛び込んでくるので、一瞬、ガラスケースの存在を忘れてしまう。美術館で仏像を展示する場合、周囲を暗くして、対象をストイックに浮かび上がらせる方式が流行りだが、こんなふうに明るい色彩の中に埋め込んでしまうのも素敵だな、と思った。

 壁に掛けられた『婦人像(厨房)』と『径』は露出展示であると知って、ちょっと得をした気分。『婦人像(厨房)』の絵具の輝きは、会場の照明のせいなのか、黒田が描き込んだ効果なのか、ちょっと見分けがつかない。若い母親と女の子と犬が一列になった『径』は、クレパスのように柔らかい輪郭線や、女の子のブラウスとスカートの白の違いをよく味わう。

 「名品編」は、当然、見たことのある作品が多かったが、記憶になかったのは『観世音寺資材帳』。地味に国宝である。筑紫の観世音寺であろう。「旧伎楽」に「師子貮面」「崑崙力士肆面」、「大唐楽」に「咲面」「羅陵」などの文字が見えた。江戸絵画は光琳の『槇楓図屏風』に蕭白の『柳下鬼図屏風』など。明治の洋画は、原田直次郎『靴屋の親父』、山本芳翠『猛虎一声』、高橋由一『花魁』など、納得のセレクション。『花魁』はヘンな絵だと思っていたが、見慣れてくると、だんだん美人に見えてきた。松岡映丘の『伊香保の沼』はどことなく怖い絵。蕭白の『柳下鬼図』よりも、上村松園の『草子洗小町』よりも、私はこの呆けた表情の女性が怖い。見ているうちに蛇体に変わりそうである。第1会場の奥は、平櫛田中コレクションで、これも楽しかった。

 続いて、3階の第2会場へ。入口に高橋由一の『鮭』があって、おや、ここに?!と軽く驚く。「名品編」にあっていいはずの作品だが、芸大コレクション随一の知名度のため「教科書で見たことあるでしょ」的なキャプションつきで、第2会場に別置になっていた。「卒業制作」コレクションに、下村観山とか杉山寧とかビッグネームが並ぶのは、さすが芸大。陶芸家の板谷波山が彫刻科の出身で、『元禄美人像』という大きな木像を作っているのは面白かった。考現学の今和次郎の卒業制作『工芸各種図案』は、初めて見たと思う。緻密であたたかみのある、手彩色の図案ポスターだった。明治・大正のすぐ隣に平成の現代アートも並んでいて、時代の飛び越し方が素晴らしい。『首都っ娘-首都高速擬人化プロジェクト』なんてのも卒業制作になるのか。

 いちばん奥のスペースには、現代作家たちが卒業時に制作した自画像の数々が並ぶ。神護寺の源頼朝像に似せた、山口晃さんの自画像。知っていたけど、見ることができてうれしい。千住博さんの自画像は、ふつうにカッコいい男子学生の図だった。

 第2会場の後半は、いろいろ面白いテーマを立てていて、原本と模写、真作と贋作(浦上玉堂)を比較したり、彫刻をつくる際の石膏原型と完成形のブロンズ像を並べてみたり。近年の作品修復の試みも紹介されていた。異彩を放っていたのは、ラグーザ制作の『ガリバルディ騎馬像』の石膏像。イタリア・パレルモ市にある銅像の原型だという(ネットで検索すると出てくる)。右手を斜め前方に差し上げ、遠方を見つめる、勇壮でダイナミックな姿である。また、藤田嗣治資料(藤田氏夫人より寄贈)やガラス乾板写真も出ていた。これらは、調べたら、同美術館の「研究資料」としてデータベースがつくられている。えらい。まだ文字情報のみのようだが、これから画像も可能な限り公開してほしい。
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