見もの・読みもの日記

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信仰の場の復元/祈りのかたち(出光美術館)

2017-08-11 14:44:05 | 行ったもの(美術館・見仏)
出光美術館 『祈りのかたち-仏教美術入門』(2017年7月25日~9月3日)

 仏画を中心とする出光コレクションの中から代表的な仏教美術作品を厳選し、信仰と荘厳の諸相を示す展覧会。同館としては、珍しいテーマ設定のような気がする。

 冒頭には奈良時代の『絵因果経』。瞑想する釈迦のまわりを悪鬼たちが取り囲む場面が展示されることが多いが、今回、その少し前の場面も開いていて、三人の美魔女が邪魔をしようと近づくが、次の場面で腰のまがった老婆になって去っていくのが可笑しかった。あとで図録を眺めていたら、釈迦を取り囲む悪鬼についての記述がとても詳しく「諸獣頭或一身多頭或面各一目」というぐあいに「或(あるいは)」で、さまざまな異類の姿かたちが挙げられている。「大腹長身」とか「頭在胸前」なんてのもある。経文って、こんなファンタジックな内容もあるのか。そして、それなりに経文の内容を踏まえた絵が添えられている。これは漢文の読めるお坊さんが絵を描いたのかなあ、それとも絵師の創作のために、漢文をやまとことばに翻訳して語り聞かせたのかなあ、などと想像した。

 それから、小さくて美しい金銅仏がたくさん出ていた。多くは古代中国(西晋~北魏~隋唐)のもので、朝鮮・統一新羅時代のものや日本の白鳳時代の水瓶を抱いた観音菩薩像もあり、中国・明代の青銅観音菩薩もめずらしかった。出光に金銅仏コレクションがあることをあまり意識していなかったので、非常に新鮮だった。ときどき見せてほしい。

 西晋時代の『青磁神亭壺』は、壺の上に人や動物の姿を盛り盛りに飾りつけたもの。特に中央部にうず高く盛り上がっているのは、木の葉かと思ったら鳥の群れだった。注目は壺の側面で、蟹やナマズや鳥・けものに混じって、仏坐像が貼り付けられている。当時の人々の仏教・仏像に対する考え方があらわれている、という解説がとても興味深かった。ちょっと諸星大二郎的な古代世界。

 本展の見どころのひとつは、旧・内山永久寺真言堂の障子絵『真言八祖行状図』8幅の、配置復元展示である。真言八祖は(1)龍猛(2)龍智(3)金剛智(4)不空(5)善無畏(6)一行(7)恵果(8)空海であるが、お堂の「東」側=胎蔵界曼荼羅の背後に、左から(5)善無畏(6)一行(7)恵果(8)空海が並んで「春」の景を示し、「西」側=金剛界曼荼羅の背後に、左から(4)不空(3)金剛智(2)龍智(1)龍猛が並んで「秋」の景を示した、と考える。会場には、左から《秋》(4)不空(3)金剛智(2)龍智(1)龍猛、《春》(5)善無畏(6)一行(7)恵果(8)空海の順に一列に並んでいた。もちろん観客は右から左へ進んでいく。うーん、興味ある試みだと思うが、これが正解なのかどうかはよく分からない。

 また『十王地獄図』(鎌倉~南北朝)双福についても、従来の展示とは左右を入れ替え、中央に地蔵菩薩立像を置くという配置が試みられており、面白かった。これ、刀葉林地獄といって、樹上の美女を追いかけて傷だらけになる哀れな男性は多くの地獄図に描かれているのだが、対幅に樹上のイケメンに目のくらんだ女性もちゃんと描かれているのが珍しい。また、十王のそばに白面朱唇のお小姓みたいな侍者(いちおう一人前の官服を着ている)がついていているのもあまり見たことがない。画面を覆いつくす赤は血と炎の色で、地獄の鬼も赤色をしているのを見ていると、当時の人々にとって「赤備え」の軍団がどれだけ禍々しかったか、分かるような気がした。

 ほかにも仏画の名品が多数。個人的には、南北朝時代の金身の十一面観音菩薩図、唇の赤い地蔵菩薩来迎図が好み。美麗すぎてある種の残酷さを感じる。室町時代の羅漢図、禅宗の頂相もいい。臨済義玄はいつ見ても怖い顔で、いつでも殴りかかる準備をしているように見える。最後は仙厓の禅画で少し和む。
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