■高麗美術館 『福を運ぶ朝鮮王朝のとりたち』(2017年7月27日~12月5日)
週末の京都。東京にまさる暑さに辟易して、冷房の効いた美術館・博物館を渡り歩いて過ごすことにした。高麗美術館では、2017年の干支である酉(トリ)にちなむ展覧会を見る。トリにちなんだ朝鮮工芸といえば、婚礼道具でもあるペアの木雁を思い出す。もちろん会場にも展示されていた。『刺繍花鳥図屏風』は鳥の羽色のグラデーションが丁寧に表現されているのに、岩の凹凸の色分けが大胆で、現代アートみたいで面白かった。民画の花鳥図は驚くほどゆるいが、文人の水墨画は巧みである。日本の水墨画とあまり見分けがつかない。
■京都市考古資料館 特別展示『極楽浄土への想い-鳥羽法皇と鳥羽離宮金剛心院跡-』(2017年7月15日~11月26日)
平成28年度に「鳥羽離宮金剛心院跡出土品」が京都市指定有形文化財となったことを記念する展覧会。資料館1階の特別展示コーナーという、そんなに広くないスペースで「入場無料」の展示だが、バラエティ豊かな出土品の数々が並び、充実した内容だった。鳥羽離宮は平安時代末期、白河上皇によって造営が開始され、代々の上皇による院政の舞台となった。はじめに壁を取り巻く写真パネルの列から眺めていく。鳥羽離宮の発掘調査は1960年代に始まり、現在までに150回を超えるという説明に驚く。1970年代後半の鳥羽地域の航空写真があったが、のどかな田畑の中に不似合いに巨大なインターチェンジが鎮座している。こんもりした茂みは天皇陵と城南宮。住宅は少ない。鳥羽離宮跡は、すでに公園として整備されている。私は、数年前にこの一帯を歩いたことがあり、平安時代の復元図と大きく異なるのはもちろんだが、1970年代と比べても、今ではすっかり風景が変わってしまったことを感じた。(※懐かしいので、2013年の記事)
発掘風景では、池の跡に有磯ふうの石組が見つかり、今も水脈が生きていて、湧き水でいっぱいになっている写真が興味深かった。金剛心院・釈迦殿の基壇は、20cm前後の石を平坦に敷きつめ、土を重ねるという作業を10回ほど繰り返している様子が、写真からよく分かる。すごい! 見つかった地鎮の壺(猿投窯の灰釉陶器)も展示されていた。ちなみに現在、この一帯は、壮観なほどのラブホテル街で、発掘現場の記録写真にあやしい看板が写り込んでいるのにちょっと笑ってしまった。展示の出土品であるが、皿は土師器、青磁、白磁のほか、漆器(黒地に赤文、赤地に黒文)もあった。漆器の扇の骨も。木製のサイコロ(目は穴を穿っている)、独楽、将棋のコマは今と同じ五角形をしている。瓦は播磨産、山城産、讃岐産など産地が分かるらしい。墨文字の書かれた杮経、経石、陰陽道ふうの呪符もあった。金色の輝きを残す『鴛鴦文八双金具』は、ひときわ目立つように別置されているが、かえって見逃しやすいので忘れないように。2階の常設展示も久しぶりに寄ってみた。土器のかけらや屋根瓦(平安時代?)に触れるコーナーなどがあって楽しい。地味にスゴイ資料館である。
■京都国立博物館 特集展示・京都水族館連携企画『京博すいぞくかん-どんなおさかないるのかな?』(2017年7月25日~9月3日)
「見どころ」の説明に「京博はじめての子ども向け展示」とあるのを読んで、へえ、そうだったか、と思った。京博は2011年に『百獣の楽園-美術にすむ動物たち-』という展覧会をやっていて、オトナも子どもも楽しめる、素晴らしい内容だった。今回はその水中生物版を期待して見に行った。2階の5部屋が全て会場になっており、「おさかな」(伝説の生き物を含む)を表現したり、材料とした工芸や書画が展示されている。京都水族館の下村実館長による種名の鑑定とコメントが面白い。
斉白石筆『紅蓮遊漁図』には、大きな口が目立つ変な顔の小魚が描かれているが、これは「カワヒラ」といって中国の多くの歴史書に出てくる魚で、5000年前頃までは日本にもいたが、今はいないのだそうだ。中国の古辞書『玉篇』には「魚へん+合」という漢字の説明に、六本足でトリの尻尾があってコウコウ鳴く魚とあり、下村館長は「ホウボウ」ではないかと推測する。グーグー鳴くのだそうだ。コイについては分からないことが多く、(元来、日本のコイと中国のコイは違ったが)現在、日本でよく見られるのは中国から持ち込まれた種類だという。専門家の話は面白いなあ。
海幸・山幸の物語を描いた『彦火々出見尊絵巻』には、漁猟の収穫物としてエイやアオウミガメの甲羅が描かれている。また、いじわるな兄の海幸彦に向かって、山幸彦(彦火火出見尊)が「しほみつの玉」を用いると、水柱が立ち上がって海幸彦を飲み込んでしまい、「しほひの玉」を振ると水が引いて、着衣も乱れ、ボーゼンとした海幸彦が現れる。マンガのようで、大笑いした。このほか、『百獣の楽園』展にも出ていた『篆隷文体』や、元信印『琴高仙人図』(コイがデカい)、円山応挙筆『龍門図』3幅(3幅並ぶのは珍しい)などを楽しんだ。
週末の京都。東京にまさる暑さに辟易して、冷房の効いた美術館・博物館を渡り歩いて過ごすことにした。高麗美術館では、2017年の干支である酉(トリ)にちなむ展覧会を見る。トリにちなんだ朝鮮工芸といえば、婚礼道具でもあるペアの木雁を思い出す。もちろん会場にも展示されていた。『刺繍花鳥図屏風』は鳥の羽色のグラデーションが丁寧に表現されているのに、岩の凹凸の色分けが大胆で、現代アートみたいで面白かった。民画の花鳥図は驚くほどゆるいが、文人の水墨画は巧みである。日本の水墨画とあまり見分けがつかない。
■京都市考古資料館 特別展示『極楽浄土への想い-鳥羽法皇と鳥羽離宮金剛心院跡-』(2017年7月15日~11月26日)
平成28年度に「鳥羽離宮金剛心院跡出土品」が京都市指定有形文化財となったことを記念する展覧会。資料館1階の特別展示コーナーという、そんなに広くないスペースで「入場無料」の展示だが、バラエティ豊かな出土品の数々が並び、充実した内容だった。鳥羽離宮は平安時代末期、白河上皇によって造営が開始され、代々の上皇による院政の舞台となった。はじめに壁を取り巻く写真パネルの列から眺めていく。鳥羽離宮の発掘調査は1960年代に始まり、現在までに150回を超えるという説明に驚く。1970年代後半の鳥羽地域の航空写真があったが、のどかな田畑の中に不似合いに巨大なインターチェンジが鎮座している。こんもりした茂みは天皇陵と城南宮。住宅は少ない。鳥羽離宮跡は、すでに公園として整備されている。私は、数年前にこの一帯を歩いたことがあり、平安時代の復元図と大きく異なるのはもちろんだが、1970年代と比べても、今ではすっかり風景が変わってしまったことを感じた。(※懐かしいので、2013年の記事)
発掘風景では、池の跡に有磯ふうの石組が見つかり、今も水脈が生きていて、湧き水でいっぱいになっている写真が興味深かった。金剛心院・釈迦殿の基壇は、20cm前後の石を平坦に敷きつめ、土を重ねるという作業を10回ほど繰り返している様子が、写真からよく分かる。すごい! 見つかった地鎮の壺(猿投窯の灰釉陶器)も展示されていた。ちなみに現在、この一帯は、壮観なほどのラブホテル街で、発掘現場の記録写真にあやしい看板が写り込んでいるのにちょっと笑ってしまった。展示の出土品であるが、皿は土師器、青磁、白磁のほか、漆器(黒地に赤文、赤地に黒文)もあった。漆器の扇の骨も。木製のサイコロ(目は穴を穿っている)、独楽、将棋のコマは今と同じ五角形をしている。瓦は播磨産、山城産、讃岐産など産地が分かるらしい。墨文字の書かれた杮経、経石、陰陽道ふうの呪符もあった。金色の輝きを残す『鴛鴦文八双金具』は、ひときわ目立つように別置されているが、かえって見逃しやすいので忘れないように。2階の常設展示も久しぶりに寄ってみた。土器のかけらや屋根瓦(平安時代?)に触れるコーナーなどがあって楽しい。地味にスゴイ資料館である。
■京都国立博物館 特集展示・京都水族館連携企画『京博すいぞくかん-どんなおさかないるのかな?』(2017年7月25日~9月3日)
「見どころ」の説明に「京博はじめての子ども向け展示」とあるのを読んで、へえ、そうだったか、と思った。京博は2011年に『百獣の楽園-美術にすむ動物たち-』という展覧会をやっていて、オトナも子どもも楽しめる、素晴らしい内容だった。今回はその水中生物版を期待して見に行った。2階の5部屋が全て会場になっており、「おさかな」(伝説の生き物を含む)を表現したり、材料とした工芸や書画が展示されている。京都水族館の下村実館長による種名の鑑定とコメントが面白い。
斉白石筆『紅蓮遊漁図』には、大きな口が目立つ変な顔の小魚が描かれているが、これは「カワヒラ」といって中国の多くの歴史書に出てくる魚で、5000年前頃までは日本にもいたが、今はいないのだそうだ。中国の古辞書『玉篇』には「魚へん+合」という漢字の説明に、六本足でトリの尻尾があってコウコウ鳴く魚とあり、下村館長は「ホウボウ」ではないかと推測する。グーグー鳴くのだそうだ。コイについては分からないことが多く、(元来、日本のコイと中国のコイは違ったが)現在、日本でよく見られるのは中国から持ち込まれた種類だという。専門家の話は面白いなあ。
海幸・山幸の物語を描いた『彦火々出見尊絵巻』には、漁猟の収穫物としてエイやアオウミガメの甲羅が描かれている。また、いじわるな兄の海幸彦に向かって、山幸彦(彦火火出見尊)が「しほみつの玉」を用いると、水柱が立ち上がって海幸彦を飲み込んでしまい、「しほひの玉」を振ると水が引いて、着衣も乱れ、ボーゼンとした海幸彦が現れる。マンガのようで、大笑いした。このほか、『百獣の楽園』展にも出ていた『篆隷文体』や、元信印『琴高仙人図』(コイがデカい)、円山応挙筆『龍門図』3幅(3幅並ぶのは珍しい)などを楽しんだ。