見もの・読みもの日記

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山城から巨大城郭へ/天下人の城(徳川美術館)

2017-08-24 00:03:00 | 行ったもの(美術館・見仏)
徳川美術館蓬左文庫 特別展『天下人の城-信長・秀吉・家康-』(2017年7月15日~9月10日)

 前日は大阪(伊丹)泊。朝イチに名古屋に移動する。久しぶりに名古屋駅に降りたら、バスターミナルが開業(2017年4月1日)し、徳川美術館行きのバス乗り場が変わっていて、とまどった。

 本展は、信長の居城の変遷を軸に、秀吉・家康へと繋がる天下人の系譜をたどりながら、三人に関わる城や武将の遺品・史料の紹介を交えつつ、天下の名城として名高い名古屋城の歴史と構造と魅力に迫り、あわせて名古屋城天守台を築いた秀吉恩顧の武将・加藤清正についても紹介する。夏休みだし、人気の戦国三英傑の名前を冠した展覧会だから、賑わっているだろうと予想はしていたが、最初の展示室から長い列がはみ出していて、びっくりした。「こちらは刀剣をご覧になる方の列です」という説明を聞いて、そういうことかと納得し、私は並ばずに中に入った。

 甲冑は、家康四男・松平忠吉所用の『銀箔置白糸威具足』。伊達政宗や大谷吉継など武将ゆかりの刀剣に、多数のファン(男女とも)が群がっていたが、私は反対側の列の『関ヶ原合戦地図屏風』『関ヶ原合戦絵巻』などの絵画資料にかじりつく。次の茶の湯・室礼の展示室では、武家らしい、簡素で精悍な茶道具と文房具を楽しむ。古銅とか青磁とか古備前とか。そんな中で、『竹に鶴図』3幅対(竹・鶴・竹)の鶴図が妙にゆるくてなごむので、作者名を見たら、10代将軍・徳川家治だった。ずるい。

 能舞台の部屋を過ぎて、大名の雅び(奥道具)の展示室に入ったら、岩佐又兵衛の『豊国祭礼図屏風』一双があって、びっくりした。この部屋に出ているとは思わなかったので。他のお客は知らないが、私はこれを見るために来たと言っても過言ではないので、ありがたく拝見する。小さな白黒写真パネルで屏風の見どころ(筍男とか)が紹介されており、右隻の朱鞘の太刀の若者が描かれたあたりには「かぶき者の喧嘩」という説明がついていた。さらに朱鞘の太刀の若者をアップにした写真と朱太刀銘の翻刻も掲げてあるのは、黒田日出男先生の『豊国祭礼図を読む』の読者には親切だが、ちょっと中途半端な感じもする。

 蓬左文庫の展示室へ移動。ここから特別展が本格的に始まる。名古屋城の起源とされるのは、今川氏親が築いた柳ノ丸で、のち那古野城と称された。また、織田信長は勝幡城(しょうばたじょう)(現・稲沢市)で生まれたとされている。今川義元や斎藤道三関係の資料、信長に関連する清須城、岐阜城の資料などが並ぶ。この展覧会、古文書が中心で、視覚的な資料があると言っても、むかしの絵図面からリアリティのある城の姿を想像するのは、なかなか難しい。そこを補ってくれるのが、専門家の手による復元図(富永商太画、千田嘉博監修)である。千田嘉博先生は、昨年『真田丸』関連で覚えたお名前で、思わずテンションが上がった。また、城址や合戦址の紹介に、ほぼ必ず今の現地写真が添えられていたのもよかった。自然が残り、往時がしのばれる場合もあるし、すっかり街中になっている場合もある。桶狭間の井伊直盛戦陣地には小学校が建っていた。

 あー面白かった、と思って展示室を出たときは、これで終わりのつもりだった。そうしたら、しばらく閉まっていた徳川美術館エリアの大展示室が開いていたので、慌てた。信長の安土城から「巨大城郭の時代」が始まり、秀吉の大坂城、聚楽第、伏見城へと続く。滋賀県や大阪城天守閣、京都市考古資料館から、いろいろな資料を借りてきており、一気にまとめて見られるのがありがたかった。愛知県・金西寺に伝わる月岑牛雪という僧侶(17世紀)が書いた文書(冊子)には、信長を「六天魔王」と罵る記述があって面白かった。「黒鼠清盛是(?)再来」ともあった。

 最後は家康がかかわった二条城、江戸城、そして天下の名城・名古屋城について。名古屋城には、第14代藩主・徳川慶勝が幕末に撮影した写真が多数残っているそうだ。何しろ殿様の撮影なので、普通の人が入ることのできない場所の写真もあるのだそうだ。明治5年には『陸軍省城絵図』が作られていることを初めて知った(出版もされている)。製作当時の意図とは違うけれど、文化財保護のために貴重な記録だと思う。

 なお、これだけ力の入った展示にもかかわらず、図録はなし。そのかわり、特設サイトができていて、解説つきの展示品全リストが公開されている。→ 徳川美術館「天下人の城」応援ブログ

 これが労作であることは否定しないが、いつまで公開しておいてくれるやら。私としては、5年後、10年後に見直せる資料が、お金を払ってもいいから手元にほしいと思うのである。
コメント
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