見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

絵画に物語を読む/「清明上河図」と中国絵画の至宝(林原美術館)

2017-08-21 22:42:15 | 行ったもの(美術館・見仏)
林原美術館 企画展『一挙公開!「清明上河図」と中国絵画の至宝』(2017年7月15日~9月3日)

 この週末は、見逃したくない展覧会を見るために1泊弾丸旅行をしてきた。ひとつめの目的地がここである。土曜の朝、空路で岡山入りして、お昼過ぎに岡山駅前に到着した。林原美術館は、岡山の実業家だった林原一郎氏(1908-1961)が蒐集した東アジアの絵画や工芸品と、旧岡山藩主池田家から引き継いだ大名調度品等を所蔵する美術館。私は岡山に何度か行っているが、同館の存在は、この展覧会の宣伝を見るまで、意識したことがなかった。ホームページのトップには、瀟洒な白壁の蔵屋敷ふうの外観写真が掲載されているので、郊外にあるのかと思ったら、岡山県庁のすぐそばだった。岡山城の天守閣も間近に望むことができる。

 展覧会の趣旨にいわく「重要文化財『清明上河図』(趙浙筆、1577年)は、当館が誇る中国絵画の代表作として知られていますが、実は当館には他にも多くの中国絵画が所蔵されています。このたび、東京大学東洋文化研究所の全面的なご協力のもと、これまで知られていなかった当館の中国絵画コレクションの全容が明らかになりました。本展ではこの成果を踏まえて、はじめてその全容を公開いたします」云々。平成の今日でも、専門家の調査によって初めて明らかになるコレクションって、まだまだあるのだなあ。

 展示は明清の絵画が20~30点、ほかに堆朱などの工芸品が少し出ている。展示室の規模は、東京近郊でたとえると五島美術館くらいだと思う。いかにも中国絵画(北宋画)らしい、雄大な山岳が上へ上へと聳え立つ山水図がある一方、ちょっと違った雰囲気の作品もある。伝・張路筆『山水人物画』2幅は、鬱蒼とした森の中、しどけない恰好で牛の背に揺られていく人物を右幅に描き、崖下の展望台に座って欄干にもたれる人物を左幅に描く。画面に対して人物が大きめに描かれていて、物語を感じさせるところが近代の日本画っぽい。

 仇英の落款を持つ『楼閣美人図』は6幅からなり、後宮(?)の女性たちが、碁を打ったり、楽器を演奏したり、孔雀と戯れたり、さまざまな表情を見せる。特に一貫したストーリーはなさそうだが、いちばん左の画幅には、鎖された壁の外にひとり佇む男性(宦官?)だけが描かれていて、想像を掻き立てられる。『群仙拱寿図巻』や『羅漢図巻』も、多くの登場人物によって展開する風景が物語的だ。人の姿のない風景になごむのは、沈周の落款を持つ『四景合壁山水図巻』。横長の画面に描かれた4枚の風景画が巻子に仕立てられている。淡彩がとてもきれい。

 本展の見もの、同館所蔵の『清明上河図』は「万暦丁丑(1577)孟冬朔日四明趙浙製」という墨書と落款を持つ。私は、2015年に大和文華館の『蘇州の見る夢』で、この作品を見ているのだが、詳細は記憶していなかった。「蘇州片」と呼ばれる『清明上河図』の複製品は多数見つかっているが、これはかなり出来のいい(見ていて楽しい)部類だと思う。緑豊かな郊外に始まり、虹橋(階段状)があり、城門をくぐると、黒い瓦屋根の密集する市街が続く。商店も多数。人物は多彩で表情豊かで楽しい(塔のかぶりものをしたお坊さんとか)。面白いのは、画中に文字が全く見られなかったこと。作者のこだわりかもしれない。看板などに文字を多用した蘇州片もあって、それはそれで解読が楽しいのだけど。

 素晴らしかったけど、拡大鏡を持ってくればよかった、と後悔しながら展示室を出たら、ロビーに『清明上河図』の高精細画像で遊べる大きなタブレットが2台用意してあった。はじめ、どちらも塞がっていたのだが、順番を待って、使わせてもらった。すると隅々にまで物語が隠れている。お店を1軒ずつ覗くのも楽しい。それぞれ異なる、店主とお客のやりとりが想像できる。そして、かなり拡大しても描写にブレがなく、手抜きがないことに感心した。この高精細画像、有料でいいからダウンロードさせてほしい! 展覧会図録には、東大東文研の板倉聖哲先生と塚本麿充先生が寄稿。いいお仕事をありがとうございました。

 なお、軽い気持ちで林原一郎氏について調べてみたら、林原グループの経営破綻について、かなり辛辣な記事が見つかってしまった。美術館経営などのメセナ活動が経営を圧迫したという説もあれば、それは誤りという説もあるようだ。いずれにしても、貴重な美術品が失われなくてよかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする