見もの・読みもの日記

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失敗に学び、強くなる/自民党(中北浩爾)

2017-11-08 23:24:29 | 読んだもの(書籍)
〇中北浩爾『自民党-「一強」の実像』(中公新書) 中央公論新社 2017.4

 私は安倍政権に強い不満を持っているので、現政権の礼賛本は読みたくない。その一方、感情的な非難で留飲を下げているだけの「反安倍」本にもうんざりしている。2017年10月の衆議院選挙が終わり、自民党の強さを再認識しながら、この政治状況のきちんとした分析が読みたいと思い、書店を歩いていて、本書にめぐりあった。

 冒頭に「安倍独裁といった見方は極端すぎる。その逆も然りである。支持するのであれ、批判するのであれ、まずは自民党の現状を冷静に観察してみる必要があるのではないか」とある。読み終えて、本書がこの宣言どおりの内容だったことを保証する。だいたい1980~90年代から今日までを視野に入れ、「派閥」「総裁選挙とポスト配分」「政策決定プロセス」「国政選挙」「友好団体」「地方組織と個人後援会」という章立てで、自民党について余すところなく語っている。

 はじめの二章は党内の人事システムを主題とする。かつて自民党には、経世会(→平成研)、宏池会、清和会という三大派閥があったが、前二者の凋落により、今は清和会の時代と言われている。しかし、この10年あまり、清和会の台頭以上に顕著なのは、無派閥議員の増加だという。80~90年代、派閥は「権力抗争と金権腐敗」の主要因として強い批判を浴びたが、ひとつの選挙区で複数の自民党候補者が争う中選挙区制では、派閥の支援がきわめて重要だった。しかし、90年代後半から2000年代前半にかけて小選挙区制が整備されたことで、派閥の求心力は大幅に低下し、「党の公認」が決定的に重要となった。また、二大政党制を目指す野党の結成(新進党、民主党)に対抗するために「選挙の顔」となる総裁の役割が重要化した。ううむ、面白い。言われてみると納得できるが、国政選挙の制度改革が、自民党の体質を大きく変えてしまったというのが、とても興味深い。

 次に政策決定プロセスについて。自民党政権には、内閣が法案や予算案を閣議決定する前に、自民党の審査を経るという慣行(事前審査制)がある。党の政務調査会部会→政調審議会→総務会を経ることにより、関連する省庁、業界団体等と重層的な調整が行われる。恥ずかしながら、この仕組みを私は全く知らなかった。中学や高校で国の制度については習ったけれど、実はこういう自民党の組織・制度まで踏み込んで習うほうが、現実の政治を理解する上で役に立つのではないだろうか。なお、官邸主導の政治を目指した小泉首相は、事前審査制を廃止しようとした。民主党では鳩山政権が政策調査会を廃止したが、政策決定に関与できなくなった多くの議員の不満を生む結果となった。この失敗に学んだ自民党は、現在も事前審査制を継続しており、安倍首相はこれを巧みに利用している。この小泉、安倍の手法の違いも興味深かった。

 国政選挙については、自民党と公明党の選挙協力が双方に利益をもたらしており、解消される可能性は低いいう分析が示されている。しかし、2017年10月の衆議院選挙の結果については、新しい分析が必要だろうと思いながら読んだ。

 次に友好団体とは、農協、医師会、各種の職能団体、中小企業団体、宗教団体などである。自民党は非常に精巧な陳情処理システムを持ち、利益誘導政治の批判を受けつつも、政策と票・カネの交換をおこなってきた。ところで、利益誘導政治批判の急先鋒は、自民党最大のスポンサーである財界だった。これは間違えないでおきたいところ。財界は「利益誘導政治」を抑制し「自由経済体制」を堅持するために、票とカネを自民党に注ぎ込んできたのである。この章を読むと、やっぱり職業を通じて何らかの団体に属している人は圧倒的に多く(自分がそうでないので忘れがちだが)、そのことが自民党の票が減らない理由なんだろうなと思った。

 そして地方組織と個人後援会について。2009年に下野した自民党が政権を奪還できたのは、強靭な地方組織があったためと言われている。国政選挙と異なり、都道府県選挙(特に農村部)では自民党の優位は圧倒的なのだ。これは都市住まいの私には見えにくない視点だった。

 ほかにも興味深い分析は多数あったが、印象的だったのは、安倍政権が、下野の経験あるいは民主党政権の失敗によく学んでいると分かったことだ。ひとつは党内の結束の重視であり、その裏返しとして、外への対抗姿勢の明確化である。民主党などリベラル勢力との差異化を図るため、右派的な理念を一層強調するようになったと著者は指摘する。原因と結果を逆にしたような話だが、意外と腑に落ちるところがある。

 また中選挙区制から小選挙区制への移行によって、いくつもの政治文化が失われたことを初めて認識した。そのひとつ、派閥の解消はよいことのように思うが、本書を読むと、派閥が若手議員の教育機能を担っていたことが分かる。また、小選挙区制では、ひとりの議員が選挙区のあらゆる要望に対応しなければならなくなり、特定の政策課題を専門とする議員は存在できなくなってしまった。いわゆる「族議員」のことで、あまり好意的に論評されることは少なかったと思うが、本当に消滅してよかったのか、疑問が残る。
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