見もの・読みもの日記

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命こそあれ/流罪の日本史(渡邊大門)

2017-11-26 22:53:35 | 読んだもの(書籍)
〇渡邊大門『流罪の日本史』(ちくま新書) 筑摩書房 2017.11

 構成は「流罪とな何か(古代~院政期)」「鎌倉時代」「南北朝・室町時代」「戦国時代」「江戸時代(明治初期を含む)」の5部構成になっていて、だいたい時代順に流罪の変容をたどる。ただ、通史というほど網羅的ではなくて、各時代でいくつかの流罪事件に焦点をあて、詳述するスタイルである。事件のチョイスは、著者の好みと関心が基本になっているように思う。

 まあそういうわけで、気楽につきあえばいいのだが、冒頭にいきなり「日本史上初の流罪は近親相姦」という小見出しがあって、おやおやと思ったら、允恭紀にある軽大娘皇女(伊予国へ流罪)のことだった。これを「日本史上初」で取り上げるのか?と冒頭からつまずいてしまった。記紀の記述により「不吉なことに羹(あつもの)の汁が凍ってしまった」「むろん、羹が凍るなど(略)史実とは認めがたいところである」と、しゃあしゃあと書いてあって、なんだろうこの人?と不思議に思った。

 その後も、崇徳院について諸説を紹介したあとに「実際に天狗になったとは考えられず」とあって爆笑した。あやしげな伝承・風説を豊富に紹介しながら、わざわざ「科学的な根拠は見出しにくい」とか「いずれも信じがたい」という注記を施していくスタイルは最後まで一貫していた。

 読み終わって、もう一度「はじめに」を開いてみたら「本書は流罪の法的根拠や手続きを解説し、主として鎌倉時代以降の流罪のシステムや実態について触れたもの」で、中世における流罪の実態はあまり知られていないので、これを中心に述べると宣言されている。確かに、信頼できる史料がそれなりに残っている時代の記述は、まあまあ安心して読めるものだった(無理に専門外の古代~中古に手を出さなければいいのに)。

 登場する人物をざっとあげていくと、軽大娘皇女、石上乙麻呂、淳仁天皇、崇徳天皇、源頼朝、俊寛、後鳥羽・土御門・順徳上皇、親鸞、日蓮、京極為兼、後醍醐天皇、上杉重能・畠山直宗、佐々木導誉・秀綱、高倉永藤、世阿弥、赤松性準・範顕、浅野長政・大野治長・土方雄久、大友吉統、真田昌幸(九度山)、猪熊事件、有馬晴信(岡本大八事件)、前田茂勝、宇喜多秀家。こうしてみると、流刑地で一生を終えた者と、カムバックした者が混じっている。最大の逆転劇を演じたのは、やっぱり頼朝だろう。

 上記には、私が「流罪人」とてあまり認識していなかった人物も含まれる。世阿弥は義教の勘気を蒙って佐渡に流されているのか。そして許されて帰京したかどうかは「判然としない」なのか。知らなかった。鎌倉以前は、いちおう法にのっとって刑罰が執行されているが、義教やその後の秀吉は、個人的な好悪や権力の誇示で流罪を活用しており、始末が悪い。

 宇喜多秀家が八丈島に流されたというのも、最近うすうす知った程度なので、詳しいことが分かって面白かった。それなりに消息が伝わっているんだな。秀家の妻の実家である加賀藩前田家が代々仕送りを続け、なんと明治元年になっても加賀藩が八丈島の宇喜多氏に米を送っていることが確認できるのだそうだ。これは「日本スゴイ」エピソードに認定してもいいんじゃない? 明治3年、ついに宇喜多一族75名が本土帰還を許され、加賀藩が身元引受人となる。本郷の法真寺、板橋の東光寺を経て最後は散り散りになったが、東京になじめず、八丈島に戻った人々もいるというのが、よくできた小説のようだと思った。
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