見もの・読みもの日記

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この世界に生きる意味/中華ドラマ『慶余年』

2020-01-19 23:49:59 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『慶余年』第1季:全46集(騰訊影業他、2019年)

 架空世界を舞台にした古装ドラマ。しかし、いろいろと仕掛けがある。大学生の張慶は、ウェブ小説コンクールに投稿するSF小説を、尊敬する葉教授に読んでもらおうとする。その小説の主題は「生命重来(生まれ変わり?)」、題名は小説『紅楼夢』の中で歌われる創作曲「留余慶」にちなんで「慶余年」という。英文タイトル「Joy of Life」の意味らしい。

 ナレーションによれば、小説の冒頭、重症筋無力症(中国語は肌無力症)を患っている現代青年が目覚めると、古装世界の赤ん坊になっていた。その子は范閑と名づけられ、現代世界の記憶を保ちつつ、海辺の街・澹州で育っていく。やがて青年に育った范閑は、南慶国の帝都・京都に暮らす父親の招きを受ける。范閑は私生児で、母親を知らず、祖母に育てられていたのだ。范閑を幼い頃から見守ってきた五竹は、かつて范閑の母の従者だったが、記憶の一部を失っていた。

 南慶国は皇帝の直下に監察院(鑑査院)という組織を備えていた。京都への出発直前、なぜか范閑は監察院から派遣された刺客に襲われる。刺客の滕梓荆はかえって范閑の護衛となり、身分を超えた友情を深める。

 京都で范閑は、さまざまな人物に出会う。父親・范健とその家族たちとはすぐに打ち解けた。人々に畏れられる監察院長の陳萍萍は、范閑にだけは優しい顔を見せる。亡き母・葉軽眉は監察院の設立者だった。婚約者の林婉児とは、思わぬ出会い方をして相思相愛になる。食わせ者っぽい皇帝の慶帝、監察院内部に渦巻く不穏な動き、太子と二皇子の両派の対立。慶帝の妹・長公主(林婉児の母親)は邪魔になる范閑を除こうと陰謀をめぐらせ、その結果、范閑を守ろうとして滕梓荆は命を落とす。

 さて南慶国は北方の北斉国と緊張関係にあったが、北斉国に間諜として潜り込んでいた言冰雲が捕えられたとの情報が入る。南慶国は、監察院の地下牢につながれていた肖恩を送還し、言冰雲の身柄と交換しようとする。范閑は勅使として北斉に赴く。

 北斉の宮廷も皇帝派と太后派の対立、太后お気に入りの権臣・沈重の専横、沈重と対立して遠ざけられている大将軍・上杉虎(この名前w)など複雑だった。沈重は送還された肖恩を幽閉し、秘密裡に殺害しようとする。それを助け出した范閑だったが、深手を負い、死を覚悟した肖恩は最後に驚くべき秘密を范閑に語って聞かせる。はるか北辺の山上にある神廟の秘密。それは、南慶国の陳萍萍と慶帝がどうしても欲しがったものであり、范閑の出生にもかかわるものだった。

 重大な秘密と陳萍萍に対する疑惑を胸に帰還を急ぐ途中、范閑一行は南慶国の軍に襲われる。最終回の最後の2分くらい、突然、文章の並んだパソコンの画面が映り、これまでのドラマが、葉教授が読んでいた小説の内容だったことを思い出す。「これで終わり?」とつぶやく葉教授。ノートPCを閉じて鞄に仕舞い「もちろん、まだ」と微笑む大学生の張慶(范閑と二役の張若昀)。洒落た演出だが、ドラマ本編の終わり方が衝撃的すぎて、続きは~!第2季は~!と暴れたくなる。

 范閑は私たちの世界の記憶を持っている設定なので、杜甫や李白の詩を暗唱して絶賛を浴びたり(しかし彼らの世界に黄河や巫山は存在しないらしい)、現代科学用語を口にして理解されなかったり、現代人ふうの行動が出てしまったり(朝食にハムエッグもどきをつくっていた)、くすっと笑えるシーンがところどころにある。一方で滕梓荆の死を「たかが護衛」と言われることに反発し、人の命は平等だ、と言い続けるのも現代人の感覚ならば納得ができる。

 また基本的にはおちゃらけた性格の范閑が時々ふっと真面目になり、自分はなぜこの世界にいるのか分からなくて、ずっと孤独で寂しかった、と述懐するところも共感できた。たぶん、違う世界の記憶を持って生まれ変わったらそう感じるだろう。いや、自分の世界しか知らなくても、人は時々そういう孤独を感じるものだ。林婉児に出会うことによって、范閑はようやく自分がこの世界に生きる意味を見つける。

 もうひとり、范閑が北斉で出会うのが海棠朶朶(辛芷蕾)。武功高手で北斉の聖女と呼ばれているが、規律に縛られず、自由に生きていて、范閑と意気投合する。この二人の関係性は現代的でとてもよいのだが、第2季以降どうなるんだろう? このほか、魅力的な脇役には事欠かないドラマであるが、話数のわりには登場人物が多すぎて、動かし切れていない感じがした。第2季に期待する。

コメント (1)
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