見もの・読みもの日記

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〈地域〉基盤の再構築/社会保障再考(菊池馨実)

2020-01-10 21:41:04 | 読んだもの(書籍)

〇菊池馨実『社会保障再考:〈地域〉で支える』(岩波新書) 岩波書店 2019.9

 持続可能性という概念をひとつの切り口として、日本の社会保障制度のあり方を再考する。持続可能性といえば、高齢化と少子化の進展によって、年金、医療、介護などの社会保障費用がふくらみ続ける状況で、財源を確保が喫緊の課題となっている。私の主な関心もそこにあった。

 著者は、はじめにそのこと(財政基盤と人口基盤)に触れつつも、より本質的な問題として、家族、企業、地域の三つの社会基盤の脆弱化、社会保障を支える市民・住民意識の希薄化と脆弱化を指摘する。うーん、そっちか。

 通説では、社会保障の目的は国民の生活保障(健康で文化的な最低限度の生活)にあるとされ、その実現のために、さまざまな「給付」手段がとられてきた。しかし著者は、個人の自立と自律のための支援こそが社会保障の目的であると考える。その実現には、財の分配だけでなく、個人の自己決定を尊重した「相談支援」が不可欠である。著者の主張には特に反対しない。理想としてはそのとおりだろう。でも、物質的であれ精神的であれ、より高いレベルの社会保障を目指しても、財源が確保できなければ、何も実現しない(持続しない)のではないか?

 このような財政面に対する不安や不信、加えて不公平感が、社会保障制度への信頼感を揺るがせていると著者は指摘する。著者は、たとえば年金制度が、マクロ経済スライドによって、簡単に破綻しない仕組みになっていることを、講義で丁寧に学生たちに説明するというのだが、やっぱり私も信じられない。公平の問題も難しい。意外と重要なのが「一定以上の所得がある中間層の現役世代」が感じている不公平感で、この集団は、たび重なる負担引き上げの対象になり続ける一方、給付面での恩恵を受けてる実感がない。分かる。

 著者は、持続可能な社会保障の実現には地域が重要と考える。伝統的な社会保障「給付」の実施責任は国にあるとしても、「生活を営む権利」を支えるのは地域社会だからだ。地域を再生、再構築することで、社会保障の持続可能性が見えてくるのではないかという。

 もし私が本書を五年前に読んでいたら、冷笑的に投げ出していたと思う。だが、終身雇用だった職場の定年も近づき、体力も落ちてくると、これまで引っ越しを繰り返し、持ち家もなく、地縁もつくらなかった私でさえも、最後はどこかの「地域」に落ち着くしかないということが、実感として理解できる。しがらみや息苦しさと表裏一体の「古き良き」地域社会を呼び戻すのではなくて、もっと新しい、居心地のいい、そして持続可能な地域コミュニティをつくっていかないとなあ。

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