〇横浜市歴史博物館 特別展『横浜の仏像-しられざるみほとけたち-』(2021年1月23日~3月21日)
横浜には、意外と古いお寺や仏像が残っていることは、かつてお隣り(?)の逗子市に住んでいた頃に認識した。本展は、横浜市域に伝わる仏像を総合的・体系的に紹介するはじめての展覧会である。展示替えと参考資料も含め、40件余りを展示。
日曜(2/7)に訪ねたら、入口でチケットを買う前に係員のおねえさんから、チラシの写真を指して「こちらとこちらは2/9からなので、現在は展示されていませんが、よろしいですか?」と確認を求められた。ちらっと見たら、弘明寺の十一面観音菩薩立像と慶珊寺の十一面観音菩薩坐像である。もともと、どこの何が出ているのか、全くチェックしていなかったし、どちらも何度か見たことのある仏像なので、素直に「はい」とお答えしてチケットを購入した。ずいぶん丁寧な対応だなあ、クレームでもあったのかしら?と思ったが、あとでチラシを見たら、通期展示でない旨の注記がなかった。なるほど、そういうことかと納得。
最も古いのは鶴見区・松蔭寺の如来坐像(伝・阿弥陀如来坐像)(飛鳥時代・7~8世紀)のずんぐりした銅造仏(東博寄託)。銅造鍍金というが、金色はほぼ見えない。直線的な目鼻、ゆったりと幅広に刻まれた衣の襞におおらかな魅力を感じる。その隣りの龍華寺の菩薩坐像(奈良時代・8世紀)は、さほど時代が隔たっていないのに、理想の人体を思わせる完成された美しさである。
平安仏は20件ほど。いちばん好きなのは、青葉区・真福寺の菩薩立像(伝・千手観音菩薩立像)。十一面八臂だが、図録の解説によれば、頭上面は全て後補、背面から左右下方に突き出された二手も後補らしく、当初は一面六臂の異体の像だったと考えられる。丸顔で目鼻が中央に寄っており、二手の肘を曲げ、肩のあたりで両手のてのひらを上に向けて開いているのも珍しい。不思議な魅力のある仏像。
港北区・西方寺の十一面観音立像は平明で穏やかで平安仏らしい木造仏。子歳開帳の秘仏であるそうだ。都筑区・清林寺の菩薩立像(伝・聖観音菩薩像)は三角形の垂髷を結う。棒立ちのような体躯は素朴だが、きれいな曲線を描く眉山など、顔立ちには神経を使っているようだ。
鎌倉時代の仏像は15件ほど。運慶周辺の仏師の作、あるいは保守派の仏師が運慶らの刺激を受けて制作したと思われるものもある。金沢区・龍華寺の大日如来坐像は、全体の醸し出す凛とした緊張感が慶派。アップでよく見ると、顔立ちは優しげで慶派的でないのだけれど。南区・寶生寺の大日如来坐像は鎌倉地方仏師の作であろうとのこと。肉体のボリューム感、衣の襞の生々しい表現など、嫌いじゃない。
本展のポスター等に使われているのは、青葉区・真福寺の釈迦如来立像。いわゆる清凉寺式釈迦如来である。鎌倉の極楽寺や金沢文庫(称名寺)にもあったはずで、この一帯で好まれた様式なのだな。本像は鎌倉二階堂から運ばれたという伝説もあるとのころ。写実というより一種のデザインとして、平面的な肉体に繰り返される衣の襞は、鉈彫りの記憶を思い出しているようだ。戸塚区・永勝寺の阿弥陀如来立像は装着面が付随して伝わっているのが面白かった。
南北朝~室町の作が5件ほど。旭区・長源寺の十一面観音菩薩立像は木肌に目口と頭上面だけ彩色されている。肉体があまりにも力の抜けた雰囲気なのも、どこか不安で妖しげな雰囲気。
なお図録は、細かい文字でびっしり解説が施されていて、読みごたえがある。加えて、本展に出品されていない「横浜市内所在文化財指定彫刻作品」が白黒写真付きで網羅されているのも大変ありがたい! これからゆっくり読ませていただく。