■日本民藝館 特別展『柳宗悦と朝鮮の工芸 陶磁器の美に導かれて』(2022年9月1日~11月23日)
日本民藝館といえば柳宗悦、柳宗悦といえば朝鮮の工芸だと思っているので、絶大な信頼感を持って見に行った。大展示室の展示ケースには、絵画コレクションが勢ぞろい。『宣伝官庁契会図』は池(?)に浮かぶ大型船にたくさんの官吏が乗っている。それから『平壌図』(これも池の図?)『架鷹図』『猫蝶図』(墨画)『花下狗子図』。絵画の前に、鉄鉢や経机、白磁の壺などが取り合わせてあるのも楽しかった。『草虫図』2点も展示あり。2階の階段まわりには大好きな『瀟湘八景図』の「洞庭秋月」と「平沙落雁』、1階の大階段下には『山神図』(虎と一体化した山神像)も出ていた。併設展では「漢と六朝の文字」をしみじみ堪能した。この時代の拓本、ほんとにどれもいい…。あと、2階の大展示室前の窓際に、細身のシンプルな花瓶(黒っぽい焼き色だったと思う)に白2本赤1本のヒガンバナが生けてあったのが珍しかったので、ここに記録しておく。
■出光美術館 『仙厓のすべて』(2022年9月3日~10月16日)
日本最大の質と量を有する出光美術館のコレクションでたどる仙厓展の決定版。私が仙厓さんの人と作品を知った最初も、ここ出光美術館の展覧会だったと思う。ただ、同館のコレクションは「楽しくて、かわいい」ほうに傾きすぎではないかと思ってきた。今回は多彩な作品が紹介されていて面白かった。私は『南泉斬猫画賛』みたいな禅の公案に基づくもの、『馬祖・臨済画賛』みたいな禅宗の祖師(こわいおじさん)を描いた作品がけっこう好きなのだ。『トド画賛』には笑った。下半身をパイナップルにつっこんだタヌキみたいになっている。数は多くないが、『箱崎浜画賛』などの風景画もよかった。
■渋谷区立松濤美術館 『装いの力-異性装の日本史』(2022年9月3日~10月30日)
絵画、衣裳、写真、映像、漫画など様々な作品を通して、日本における異性装の系譜の一端を辿り、性の越境を可能とする「装いの力」について考察する。取り上げられている人物(事例)はだいたい予想どおりだったが、お、この作品を持ってきてくれたか!と嬉しかったものもある。たとえば、ヤマトタケルを描いた石井波響の『童女の姿になりて』。『新蔵人物語絵巻』(サントリー美術館)も来ていた。「戦う女性」といえば、神功皇后、巴御前、力自慢の板額など。また、赤地に井桁の井伊家の旗印の下に、こころもち細身の『朱漆塗色々威腹巻』が出ていて「女性用の具足」と説明されていた。思わず、おんな城主直虎の?!と思ったがそうではなく、井伊直弼の二女弥千代の所用と伝えられており、井伊直禔の継室清蓮院の遺物を所用とした可能性があるとのことだった。
近現代では、高畑華宵、橘小夢、さらに手塚治虫『リボンの騎士』(なつかしい!)池田理代子『ベルサイユのばら』江口寿史『ストップ!!ひばりくん!』も展示されていた。考察でいろいろ気になった点もある。ひとつは、まだ不明な点の多い東豎子(あずまわらわ)の存在。それから、中世寺院の稚児は女装させられ、性的にも女性の役割を期待されることが多く、実態は異性愛の模倣ではないかという指摘。また、近世において、男性の異性装(女装)は許容されたが、女性の異性装(男装)は人倫を乱すと考えられ、刑罰の対象になったという。明治になると、男性の女装も取り締まりの対象となっている(しかし学生などが「仮装」として異性装を楽しむ伝統は絶えなかったようだ)。
■サントリー美術館 『美をつくし-大阪市立美術館コレクション』(2022年9月14日~11月13日)
改修工事のため長期休館に入った大阪市立美術館所蔵の優品を、各ジャンルから厳選して紹介する。何度も訪ねている大阪市立美術館(特に常設展が大好き)だが、せっかく東京に来てくれたので、参観に行った。おお、これも来てるし、あれも来ている!という感じで嬉しかったのは、中国の石造彫刻(山口コレクション)。近代美術は意外と見る機会が少ないので、北野恒富『星』は初めて実見したかもしれない。というか、このさわやかな女性像、北野恒富なんだ…ということに少し驚いた。松濤美術館で見た『新蔵人物語絵巻』の別の場面が展示されていたのにも驚いた。これは大阪市博の所蔵品なのだな。
ほかに気になった作品としては、長谷川等伯『烏梟図屏風』。家光の描くフクロウに少し見ている。尾形光琳『鶴虎図下絵』は京博のトラりん(竹虎図)にちょっと似ていた。尾形乾山の兄・光琳宛て書状には、光琳の浪費癖をとがめる文言があって、苦笑してしまった。室町時代の『荼枳尼天曼荼羅図』もすごく好みでよかった。