10月三連休に見てきた小さな展覧会をまとめて。
■大田区立郷土博物館 特別展『大勾玉展-宝萊山古墳、東京都史跡指定70周年-』(2022年8月2日~10月16日)
全国各地から約1500点の勾玉を一堂に集めた大勾玉展。大田区には全く土地カンがないので、ネットでアクセスを調べて行ってみた。あまり広くない会場は大賑わいだった。勾玉(まがたま、曲玉)は、Cの字形またはコの字形に湾曲したかたちをしている。勝手に古墳時代のイメージを持っていたが、縄文時代早期に登場するという解説に、まずびっくりした。その後、弥生時代早期から前期にはやや衰退するが、古墳時代に復活し、ヒスイ製の丁子頭勾玉は倭王権の象徴となる。というのは概略で、会場の解説はもっと詳しいので、食い入るように読んでしまった。ヒスイのほかに、瑪瑙(赤茶色)、碧玉(黒っぽい)、滑石、蛇紋岩、土製や青銅製、水晶、ガラス製の勾玉もあるのだな。古代の日本ではガラスを製造することはできなかったが、輸入したガラス玉を勾玉に加工していたようである。
そして、なぜ大田区で勾玉展なのか全く分かっていなかったが、区内に多数の古墳があることを初めて知った。会場入口の「TOKYO MAGATAMA」のセクションには、大田区、足立区、板橋区、北区、港区、世田谷区などで出土した勾玉が並んでいた。やっぱり江東区や江戸川区はないんだな…と納得した。
ついでに常設展も参観。郷土博物館の周辺が「馬込文士村」と呼ばれる地域だったことを知る。大正末から昭和初期なので、宇野千代、佐多稲子、村岡花子など女性も多い。小説家だけでなく、小林古径や佐藤朝山も住んでいたのだな。
■日比谷図書文化館 特別展『学年誌100年と玉井力三-描かれた昭和の子ども-』(2022年9月16日~11月15日)
1922(大正11)年に『小學五年生』と『小學六年生』が創刊されて以来、日本独特の出版文化をつくりあげてきた学年別学習雑誌。その発行部数が最も多かった1950年代から70年代にかけて表紙画を手がけた玉井力三(1908-1982)の表紙画を中心に、学年誌の100年を追いかける。
おもしろかった! はじめに戦前の学習雑誌が数点展示されており、男児と女児が並ぶスタイルは戦後と同じだが、男児が女児を守る構図が徹底している。それが気持ちよく壊れるのが戦後で、玉井の描く子供たちは、どちらが男児でどちらが女児か、ときどき分からなくなるほど差異が曖昧である。1960年代の学習雑誌は子供の顔が主役で「パーマン」や「オバQ」の文字はあってもそう大きくない。70年代になると、アニメや特撮のキャラクターが表紙に登場し、絵画の領域を圧迫する。そして、いつの間にか、子供の顔は絵画でなく写真が用いられるようになり、やがて子供の顔写真を使わない表紙に変わっていく。
会場には、完成形の雑誌表紙の写真とともに、玉井の原画(油彩画)がずらりと並んでいて圧巻だった。よくぞ保管してくれたものだ…。私は、玉井の表紙画とともに幼年時代を過ごした世代なので、とても懐かしく、初めてこのひとの名前を知ることができて嬉しかった。応援団長の山下裕二先生に感謝!
■丸善・丸の内本店4階ギャラリー 第34回慶應義塾図書館貴重書展示会『文人の書と書物 -江戸時代の漢詩文に遊ぶ-』(2022年10月5日~10月11日)
毎年、楽しみにしている慶応大学の貴重書展示会。今年は、江戸時代、儒学と呼ばれる学問を修め、その成果を社会に生かそうと政治や教育に携わる一方、漢詩や書画などの文学/芸術に遊んだ人々=文人の足跡をたどる。
北條霞亭撰『厳寒堂遺稿3巻附録1巻』は、旧蔵者の浜野知三郎から森鴎外に貸し出され、鴎外の史伝小説『北條霞亭』の主要資料になった。展示は、小さな付箋に「鴎外付箋」の注釈がついていて笑ってしまった。確かに、ちょっと癖のある文字は鴎外の筆だと思う。
あと『直舎傳記抄』は、渋江抽斎が津軽藩医の宿直日記を抜き書きしたもので、これも鴎外が当時の所蔵者・富士川游から借り受けて小説『渋江抽斎』の材料にしたものだという。図書の来歴はおもしろい。