〇三井記念美術館 特別展『大蒔絵展-漆と金の千年物語』(2022年10月1日~11月13日)
この春、MOA美術館で開催された展覧会の共同開催展。このあと、2023年春の徳川美術館を加え、3会場で国宝25件、重要文化財51件を含む計188件を展示する企画である。三井記念美術館での展示件数は(蒔絵以外も含め)188件だが、けっこう展示替えがある。
私は『源氏物語絵巻・宿木一』が見たかったので、最初の週に出かけた。東京にいると、徳川美術館所蔵の巻はなかなか見る機会がないのだ。引き違いの障子で隔てられた右側の部屋(朝餉間=あさがれいのま)で男性二人が碁盤を間に向き合っている。今上帝(朱雀帝の皇子)と薫である。右側の部屋には女官が二人、隣室の様子を気にしているようだ。実はこの画面、現存『源氏物語絵巻』で唯一内裏の建物内部を描いたものだという。調度品など、細部まで描き込みが多くて、とてもおもしろい。一昨年、中国ドラマ『棋魂』(原作はマンガ『ヒカルの碁』)にハマったこともあって、碁盤のマス目が、ぼんやりでなくきちんと描かれているのに感心した。年長っぽい奥の男性(今上帝?)が黒石を使っているのも気になったが、ネットで見つけた解説によると、上位の者が黒石を使うことになっていたそうだ(※このサイトが詳しい)。
古筆は、定信筆の『石山切』と『継色紙』(どちらもMOA美術館)を見ることができて満足。『継色紙』は「わたつみのかざしにさせるしろたへの なみもてゆへるあはぢしま山」で、春にMOA美術館でも見たが、私が一番好きなもの。実は本展、三井記念美術館の所蔵品は10件もなくて、他はMOA美術館、徳川美術館、東博、京博、根津、サントリーなど、各館からの出品である。仁和寺や高台寺、春日大社や和歌山の金剛峯寺からの出品もあって、リストを眺めるだけでも興味深い。
蒔絵作品では、素朴な図柄の『蓮池蒔絵経箱』(文化庁、平安時代)に目が留まった。根津美術館で見たもの(鎌倉時代)とよく似ていた。『形輪車蒔絵螺鈿手箱』(東博、平安時代)は、波間に金銀の形輪車が浮かぶ文様。仏教の寓意に由来するという説明を読んで感心していたが、車輪が乾燥して割れるのを防ぐため水に漬けた情景という見方もあるそうだ。
私は、明快で大胆な意匠が好きなので、『日月蒔絵硯箱』(仁和寺、桃山時代)はとても好きだ。『秋草蒔絵歌書箪笥』(高台寺、桃山時代)も、秋草と露というモチーフは優美だけど、色とかたちを単純化したデザインは大胆だと思う。西洋と出会った蒔絵(南蛮漆器)も大好き。なお、この時代を想像するのにぴったりの『聚楽第図屏風』(桃山時代、三井記念美術館)が出ていたのは嬉しかった。
尾形光琳の『八橋蒔絵螺鈿硯箱』(東博)は、ちょっとやりすぎで、うるさすぎの感じがする(でも欲しいけど)。小川破笠、原羊遊斎、柴田是真、さらに現代の人間国宝の作品もあり、楽しめた。