見もの・読みもの日記

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大宇宙と小宇宙/三体III:死神永生(劉慈欣)

2021-06-19 11:09:41 | 読んだもの(書籍)

〇劉慈欣;大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、泊功訳『三体III:死神永生』上下 早川書房 2021.6

 第1部第2部が、基本的に古典的な物語の構成に則っており、【ネタバレ】の急所が分かりやすかったのに比べると、第3部はそうでない。起承転結の「転」が何度もあり、残り20ページくらいになっても、結末が読めない展開だった。

 本格的な物語は危機紀元4年から始まる(第2部の開始とほぼ同時期)。莫大な資産を手に入れたが、不治の病に苦しむ雲天明は、恒星DX3906を購入し、大学時代、淡い思いを寄せていた程心に匿名でプレゼントする。程心は三体世界に人類を送り込む「階梯計画」に従事していた。計画では探査機を極限まで軽量化するため、人間の脳だけを送ることになり、雲天明はこのオファーに応ずる。

 程心が冬眠から目覚めたのは、暗黒森林抑止システムが成立した抑止紀元。三体世界は地球世界に融和的になり、人類の科学技術は飛躍的に発展し、多様な文化芸術が花開いていた。重力波宇宙送信システムの最終制御権を有する執剣者(ソードホルダー)羅輯はすでに百歳を超えており、次の執剣者として程心が選ばれる。

 羅輯から程心へ重力波送信スイッチが引き渡された15分後、3機の水滴(三体世界の小型機)が地球に突入する。程心はスイッチを押すことができず、地球上の重力波送信装置は全て破壊された。暗黒森林抑止の終了。三体世界が地球に送り込んでいた女性型ロボットの智子は、全人類にオーストラリアへの移住を命じ、三体艦隊が地球に向かっていることを告げる。

 その頃、宇宙空間では、かつて地球連合艦隊の崩壊の際に脱出した宇宙船「藍色空間」を「万有引力」が追っていた。「万有引力」に同行していた水滴が、突如「藍色空間」「万有引力」双方に攻撃を仕掛けたが、間一髪で難を逃れる。「藍色空間」は「万有引力を奪取し、両艦の乗員たちは「万有引力」搭載の重力波送信装置によって、三体星系の座標を宇宙に公開した(太陽系の座標も公開されたことになる)。状況を察知した三体艦隊は逃げ出し、地球には平和が戻る。

 重力波送信から3年10ヵ月後、三体星系の破壊が観測された。迫り来る危機を実感する人類。三体人の生き残りに制御されている智子は「雲天明が会いたがっている」と程心に告げる。雲天明と程心の会談は宇宙空間で行われた。三体人の監視の下、人類が知るべきでない情報が話題にのぼったときは程心の宇宙艇は即座に爆破される約束だった。雲天明は三つのおとぎ話を語って去った。

 人類は雲天明のメッセージの解読に取り組み、「掩体計画」「暗黒領域計画」「光速宇宙船プロジェクト」を同時進行で開始する。程心は、「光速船をつくる」と息巻くかつての上司ウェイドに資産全てを託し「人類を危険にさらす可能性が出てきたら私を蘇生させること」という条件をつけて冬眠に入る。60数年後、約束どおり蘇生させられた程心は、光速船開発のため武力蜂起しようとしているウェイドに連邦政府への投降を命じる。

 そして三たび程心が冬眠から目覚めたとき、人類は三体文明とは別の宇宙文明に接触していた。それは宇宙空間に浮かぶ一枚の紙きれ状の物体、二次元平面だった。超絶高度な文明が仕掛けた次元攻撃である。三次元世界はみるみる二次元平面に落ち込んでいく。程心は古い友人の艾AAともに、羅輯に見送られて光速船で太陽系を脱出し、太陽系の破滅を目撃する。

 程心と艾AAは恒星DX3906へ向かい、青色惑星(ブルー・プラネット)に着陸した。そこにいたのは「万有引力」の乗員だった関一帆。あれから「万有引力」「藍色空間」の乗員たちは居住可能な惑星を見つけて開拓し、文明を進化させてきた。1世紀前には光速宇宙船の建造も可能になっていた。

 青色惑星の静止軌道上に残してきた宇宙船から警告メッセージを受けた関一帆は、程心とともに偵察に向かう。そこへ地上の艾AAから「雲天明が来ている」という連絡。しかし二人の乗った宇宙船は光速船の航跡(デス・ライン)に囚われ、一千万年以上未来の青色惑星に帰還することになる。すでに艾AAと雲天明は跡形もなく、雲天明のプレゼントである「小宇宙」の入口だけが残されていた。中には畑と白い家があり、小宇宙#647の管理者だという智子が待っていた。二人は小宇宙でしばし穏やかな日々を過ごす。

 あるとき大宇宙からすべての小宇宙に向けて、緊急メッセージが発信される(数十万種類に及ぶ言語の中には三体言語と地球言語もあった)。小宇宙の質量を直ちに大宇宙に返還してほしい。そうでないと、大宇宙は永遠の膨張の中で死んでしまうというのだ。程心と関一帆は小宇宙での安逸を放棄し、智子とともに宇宙船に乗り込み、大宇宙へ帰還の旅に出立する。

 長い物語の終幕、何度も決断に失敗してきた程心が最後の「責任」を果たそうとすること、三体文明の生き残りである智子の「わたしが生きているかぎり、お二人の身に危険がおよぶことはありません」という力強い言葉は、感慨深かった。程心は、生態球(エコスフィア=水と人工太陽、小魚や青藻を閉じ込めたもの)を小宇宙に残していくが、関一帆も「万有引力」で航行時に未知の知的生命体に出会って交信した際、求められるまま、小さなエコスフィアをプレゼントしている。宇宙の片隅でしか生きられないひ弱な人類と、外へ向かう強い意思の交錯するこの物語において、生態球はシンボリックな存在である。むかし澁澤龍彦のエッセイで読んだ、石の中に住む魚の話を思い出した(※宋・杜綰の『雲林石譜』にあるらしい)。


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