みなさん、こんにちは。稼プロ!20期生の加納です。
11月24日(火)に、ハラスメント防止研修の講師を務めてきました。
対象はあるゼネコンの100%子会社の社員で、多くは60歳を過ぎた定年後再雇用の方々。8名の方々が会場にリアルで、その他の数名は自席でTeamsを使って聴講されました。
当初は導入とセクハラについてで20分、パワハラについて30分、マタハラ・パタハラについて10分、各種判例について20分、まとめで10分、合計90分と予定していました。残り5分で質問を受け付けたところ、予想を裏切って?次々と手が上がり、15分オーバーで終了。熱心に聞いていただけるのは、ありがたいことです。
特に悩みが多かったのは、パワハラと指導の境界のようです。
ご存じの方も多いかとは思いますが、パワハラに関する法律が施行されたのは今年の6月1日。パワハラ防止のための措置をとるよう、会社は義務付けられました(中小企業は2022年3月31日まで努力義務)。
法律や関連するガイドラインでは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の職場環境が害されるものであり、①から③の要素を全て満たすもの」がパワハラとされています。
「①優越的な関係」とは、相手の言動に対して拒否や拒絶できない確実性が高い関係。たとえば上司と部下、豊富な経験や知識を持った部下と新任管理職、同僚や部下の集団と個の関係です。
「②業務上必要かつ相当な範囲」かどうかは、行為の目的が業務上必要なものなのか、必要だとしてその手段や有ありさまが社会的に許容範囲内なのか、で判断します。
「③労働者の職場環境が害される」とは、精神的または肉体的苦痛により能力の発揮に重大な悪影響を与えるなど、就業するうえで見過ごすことができない支障が生じることです。このとき、個々の労働者それぞれではなく、平均的な労働者がどのように感じるかが問題とされます。
したがって、いじめたり退職させたりすることが目的ならば、その言動はアウト。教育や指導だったとしても、暴力や脅迫などによるものもアウト。何度注意しても素行を改めなかったりしたときに、一定程度強い調子で注意を与えるのは許される。というよりは、職場規律維持のためにも必要なことになります。
また、部下が上司から叱責を受けて「これはパワハラだ」と訴えても、平均的な労働者にとっては適切な範囲内のものならば、パワハラにはなりません。「平均的」を数値化できないので難しい面はありますが、パワハラと言われることを過度に恐れて必要な注意をしないことは、好ましいことではありません。
もう一つ問題なのは、上司本人がいくら指導や注意をしたと主張しても、平均的な労働者にとっては適切なものでない、社会的な許容範囲を超えていれば、パワハラに該当するわけです。「嘘を平気でつく、そんなやつ会社に要るか」「会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか」「いつまでも甘甘、学生気分はさっさと捨てろ」「死んでしまえばいい」などの言葉を与えて部下を自殺に追い詰めた上司について、裁判では「これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、部下の人格を否定し、威圧するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得ない」とされました。部下を指導するというよりは、ストレスを発散するための言動になっていたわけですね。自分に厳しいタイプの方も要注意です。相手にもその姿勢を求め、必要以上に厳しくなる傾向があるからです。
ところで、パワハラだと訴えが会社にあると、相談窓口が対応して事実関係を調査するのが一般的です。そして、パワハラが事実と認定されれば行為者はそれなりの懲戒処分を受け、場合によっては被害者と顔を合わせないようにするため異動もさせます。しかし、中小企業では顔を合わせなくても済むような異動は、なかなか困難なことでしょう。となると、パワハラが起きないようにすることが一層重要となります。まずはトップがパワハラを許さないという方針を明確に打ち出し、パワハラが発生しないように研修や啓もう活動をすることが必要でしょう。
最後に、パワハラが法制化される前のことですが、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」がパワハラ問題に取り組む企業にヒヤリングをした際に聞いた、人事担当役員の言葉をご紹介します。
「全ての社員が家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり苦しめたりしていいわけがないだろう。」