17期の永井ゆうくんです。
ここ最近、経営戦略分野の本を読み漁っているので、前回(V字回復の経営)に引き続き、図書紹介です。
「経営戦略を問いなおす」著書:三品和広
概要は以下のとおりです。
世の大半の企業は、戦略と戦術を混同している。成長第一で事業を拡大したのに何の利益も出なかった、という企業が少なくない。見せかけの「戦略」が、企業の存続を危うくする。目指すべきは、長期で見た利益を最大化することである。それを実現する戦略はマニュアル化になじまず、突き詰めれば人に宿る。現実のデータと事例を数多く紹介し、腹の底から分かる実践的戦略論を説く本書は、ビジネスパーソン必読の書である。
三品教授は、経営戦略論の第一人者として知られていますよね。
経営書として異例のベストセラーとなっている楠木建氏の「ストーリーとしての競争戦略」でも、本書の考え方が引用されています。
昨今、テンプレート偏重・ベストプラクティス偏重のきらいがありますが、私は文字通り好ましくないと思っています。
戦略はテンプレート化できるほど単純ではないし、一つのベストプラクティスが、状況が全く異なる他社でもベストとは、到底思えないからです。
こういった考えを、強力に後押ししてくれたのが本書です。
本書の主張で、私が面白いと感じたものは以下のとおりです。
1.戦略は「アナリシス」とは相容れず、その根幹は「シンセシス」にある。
SWOTやPPMといった思考ツールの脆弱性に対する示唆。
SWOTは、何を強み・弱みと見るのか、高度な経営判断の問題による。
PPMは本来、コスト優位と投資の必要性を座標軸とすべき。ここでも高度な経営判断は避けられず、競合の出方次第で状況は変わるもの。
2.戦略は極めて属人的なもの。部署ではなく人が担う。
経営戦略に対応する部署は企業の中で見つからない。
経営企画はあるが、実情は予算取りまとめや会議資料作成に時間を取られている。
戦略は、事業部長から上を占める経営職の人たちが担っており、従って、人を選ぶことで戦略を間接的に選ぶ図式が成り立つ。
3.戦略の要諦は、「立地」「構え」「均整」にある。
・「立地」:誰に何を納めるか。
(同じ電機業界でも、コネクタやモーターを手掛ける企業とAV機器や家電を手掛ける企業とでは、利益率は異なる。また、同じモーターの中でも、家電用の汎用モーター、HDD用のスピンドルモーター、自動車部品用の小型モーターとでは、これも利益率は違ってくる。鉄鋼業界でも、棒鋼、形鋼、鋼板、線材と品種によって需要家とのパワーバランスは異なるし、需給環境の違いは大きい。従って、利益率も異なるもの。)
・「構え」:垂直統合(タテ)、多角化シナジー(奥行き)、地域展開(ヨコ)で構成。
(サウスウエスト航空の例では、普通ならアウトソーシングする上流・下流業務まで取り込み、アンコントローラブルな攪乱要因を極小化。)
・「均整」:戦略の最終的な有効性はボトルネックで決する。立地や構えが立派でも、大きなボトルネックが存在すれば、戦略はうまく機能しない。
(失敗例:マツダ5チャネル体制)
本書は、一通り、経営戦略やフレームワークの一般論を学んだ後に読むことに意義があります。
このため、診断士のみなさんは、本書を通じて多くの示唆を得られることでしょう。