こんにちは!
稼プロ!24期生の松田です。
本連載では、「2025年問題」をテーマに、日本の中小企業が直面する課題とその解決策を探っています。特に、東京一極集中の影響で地方企業の人手不足や後継者不足が深刻化する中、事業承継の問題は喫緊の課題です。2025年が幕開けして早くも1か月が経ち、多くの地方企業が待ったなしの正念場に立たされています。
時間は待ってくれません。団塊世代の経営者が確実に高齢化する中で、後継者問題と向き合わずに事業承継を先送りすることは、企業存続にとって大きなリスクとなります。早期に着手し、円滑に進めなければ、廃業や倒産という厳しい選択を迫られる可能性がますます高まっています。
中小企業庁の調査によると、2025年までに約127万社が廃業のリスクに直面するとされています。そのうち約半数は黒字企業です。 もし適切な対策が講じられなければ、企業の消滅による雇用の喪失、技術やノウハウの断絶、さらには地域経済の衰退が加速することが懸念されます。
こうした状況を受け、親族内承継や社内承継に加え、第三者承継(M&A)が重要な選択肢として注目されています。 特にM&Aは、後継者不在の企業にとって事業を存続・発展させる手段です。同時に、成長を目指す企業にとっても新たな市場や技術を獲得する機会となり得ます。
こうした中、中小企業庁は2019年に「第三者承継支援パッケージ」を策定し、10年間で60万者(6万者/年×10年)の第三者承継の実現を目指す方針を打ち出しました。また、2021年には、事業承継に関する支援体制が強化され、それまで別々に対応していた親族内承継支援の組織と第三者承継支援の組織が統合される形で『事業承継・引継ぎ支援センター』が発足しました。これにより、事業承継問題を一元的に取り扱い、ノウハウを蓄積しながら支援を行う体制が整備され、M&Aの相談件数や成約件数が急増しています。
とはいえ、中小企業のM&A市場は、まだ確立されたプラクティスが少なく、特に価格の透明性の欠如や手続きの煩雑さが課題となり、目標とする年間6万者には達していません。
こうした課題を解決するため、近年ではデジタル技術を活用したM&Aマッチングプラットフォームが登場し、中小企業がより効率的に買い手や売り手を見つけやすい環境が整いつつあります。
本稿では、私自身の経験も踏まえ、M&Aマッチングプラットフォームの特徴と活用法などについて考察します。
M&Aマッチングプラットフォームの発展と技術革新
近年、デジタル技術の進化により、M&Aのプロセスは大きく変化しています。特に、コロナ禍を契機にオンライン商談や契約手続きが一般化したことが下地となり、M&Aプロセスのデジタル化が加速しました。私自身、コロナ前からコロナ禍にかけてインドで日印案件のソーシング業務に従事していましたが、投資銀行や会計事務所などからの紹介など、アナログな手法に頼ることが多く、成約に至るケースはごくわずかでした。今振り返ると、実に非効率だったと痛感しています。
日本においても、従来のM&Aは対面交渉や仲介業者を介した紹介が主流でした。しかし、この方法では時間とコストがかかり、特に地方企業にとっては適切な買い手や売り手を見つけるのが困難でした。
現在では、M&Aマッチングプラットフォームの普及により、オンライン上で手軽に相手を探せるようになりました。これにより、遠隔地の企業同士でも迅速な交渉が可能となり、M&Aの実施が従来よりも簡便かつ効率的になっています。
さらに、異業種の買い手候補からのアプローチを受ける機会も増え、選択肢の拡大とともに、企業価値の適正な評価につながるケースも増えています。加えて、ゼロからの創業ではなく、M&Aによる起業を志す個人の参入も活発化しており、まさに「M&A戦国時代」の様相を呈しています。
マッチングプラットフォームの主な特徴
M&Aマッチングプラットフォームでは、売り手企業が匿名で情報を掲載し、買い手企業が条件に合う案件を検索できます。気になる案件とマッチングした場合、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで実名開示を依頼し、トップ面談に向けてオンライン上で企業の詳細情報を把握できる仕組みを提供しています。主な特徴は以下の通りです。
1.スクリーニング機能
M&Aマッチングプラットフォームのスクリーニング機能は、買い手が希望する案件を迅速に絞り込むための検索ツールです。従来のM&Aでは、アドバイザーや仲介者を通じてアナログに案件情報を得る必要がありました。しかし、スクリーニング機能を活用することで、売り手・買い手双方がオンライン上で自ら検索し、短時間で適切な相手を見つけることができます。
・多様な検索条件で精度向上
スクリーニング機能では、業種、地域、企業規模、財務状況、譲渡希望金額などの条件を自由に組み合わせ、リアルタイムで最適な案件を検索できます。例えば、「関東の製造業、売上5億円以上、黒字経営」のように具体的な条件を設定し、短時間で適切な案件を絞り込むことが可能です。
・迅速な案件の絞り込みと自動通知機能
M&Aマッチングプラットフォームでは、条件に合う新規案件が登録されると、買い手にメールで通知される機能があります。また、登録した買いニーズに基づいて、適した案件を自動表示する「おすすめ案件」機能も提供されています。
・売り手や売り手アドバイザー側の活用
売り手や売り手アドバイザーが買い手の買収希望条件を検索し、条件に合った買い手に対して直接提案をすることも可能です。また、売り手アドバイザーは、売り案件の地域や業種に基づいて自動的に選ばれた提案可能な買い手リストを確認し、売り手側から買い手候補に一括提案できる機能も備わっています。
これらのオンラインスクリーニング機能により、M&Aのマッチング精度が向上し、売り手・買い手双方の機会損失を防ぐことが可能になります。 しかし、プラットフォームに頼り、ただ待っているだけでは、良い「出会い」に恵まれるとは限りません。
M&Aは婚活によくたとえられます。進化し続けるマッチング機能を最大限に活用するためには、買い手候補の目に留まりやすくする「アナログな工夫」も不可欠です。 例えば、ノンネームシート(匿名案件情報)において、買い手の関心を引くキャッチコピーの工夫や、価値提案の明確化を行うことが重要です。
2.多種多様なプラットフォーム
M&Aマッチングプラットフォームには、全国規模で利用できるものから、特定の地域や業界に特化したものまで、さまざまな種類が存在します。
・全国規模のプラットフォーム
全国規模のプラットフォームは、幅広い業種・地域の案件を取り扱い、多くの買い手候補が登録しているのが特徴です。さまざまな業種・規模の企業と全国規模でマッチング可能な反面、地方企業にとっては地域に根ざした買い手が見つかりにくい場合もあります。
・地方自治体や金融機関が運営する地域密着型プラットフォーム
地方自治体や地方銀行、信用金庫が運営するプラットフォームは、地域内での事業承継に特化しており、地元の企業や個人事業主に適しています。ただし、登録案件数が少なく、選択肢が限られる場合があります。
このように、全国規模のプラットフォームと地域密着型プラットフォームを目的や条件に応じて使い分けることで、より適切な買い手・売り手とマッチングしやすくなります。
3.生成AIを活用したM&Aプロセスの効率化
近年の生成AIの急速な発展により、M&Aアドバイザーの業務効率化や支援の質を向上させる機能を導入するプラットフォームが増えています。 例えば、決算書の自動読み取り(OCR)、ロングリストの自動生成、案件診断(プレDD)支援 などがあり、これらの技術により、迅速かつ精度の高いマッチングが可能となり、M&Aプロセスの効率化が進んでいます。
M&A市場の拡大に伴い、2035年頃までに市場規模は13兆円を上回ると予測されています。一方で、M&A支援を担う専門家は年々増えているものの、専門知識や実務経験に乏しい支援者の参入が増えており、慎重な見極めが求められています。
これまで参入障壁が低かったこともあり、詐欺まがいのM&A取引が横行し、被害を受けた売り手も少なくありません。M&A市場の信頼性を回復し、事業承継を通じた事業継続や雇用確保、技術承継、さらには地方経済の活性化という本来の目的を果たすためには、健全なM&Aを担う人材の育成が急務です。
次回は、M&A支援専門家がプラットフォームをいかに活用し、2025年という時代の要請に応えていくべきかを探ります。