今晩は、才村です。
今日は、10月13日に都内で聴いてきた同上テーマの講演を取り上げます。講師は濱口哲也教授でした。9時45分頃から12時過ぎまで、約140分間、奔放なおしゃべりでした。濱口氏は、失敗学で有名な畑村洋太郎先生に薫陶を受けた方です。
JISによると、「リスク」とは「目的に対する不確かさの影響」(好ましい方向及び/又は好ましくない方向に乖離すること)であり、ある事象の結果とその発生の起こりやすさとの組合せとして表現されることが多いと定義されています。リスクマネジメントとは、組織の状況の確認→リスク特定→リスク分析→リスク評価→リスク対応→モニタリング及びレビューの順でリスクを受容可能な範囲内に管理することです。
一般に、リスクという言葉は好ましくないことについて使いますので、「リスクマネジメントのための失敗学」とは、好ましくないことの結果と発生確率を受容可能な範囲まで低減するために、失敗学で得られた知見を活かそうということと解釈しました。低減のための「再発防止」は、起きてしまった好ましくないこと(失敗)の原因を除去することであり、「未然防止」は起こるかもしれない好ましくないこと(失敗)の原因を除去することです。未然防止策というと、津波による福島原発の冷却電源喪失被害のように、事象の結果の重大性が分かっていても、発生確率が千年に1回と小さいとみなせば、労力とお金が掛かる防止策は後回しにしようということになり、再発防止策より遥かに実施が難しいのが実態です。
今回の講演のポイントは、以下の通りでした。なお、演者は同一テーマで何度も講演をされていますので、ネットで他の方の報告も読めます。
1.上位概念に登れば水平展開できるという教え
過去や他人の失敗事例を取り上げる。→
「つまり」という言葉で上位概念に登る(知識を情報化する)。→
「だとしたら」自分の仮想失敗事例に当てはめる。
⇒「つまり」という言葉で、どんどん、真の原因や根本法則に近づいていく。そして、「だとしたら」で真の原因や根本法則を自分の仮想失敗事例に当てはめ、起きるかどうかを確認し、起こりそうなら、未然防止策を実施するということです。「なぜなぜ5回」も同じですが、これらのような馴染みのある言葉を使うと、さらに深く追究したくなる気がします。
製造業の分野では、不良対策に当たり、「三現主義」のほかに、「5ゲン主義」が唱えられています。原理・原則レベルまで戻って考えようという指針です。
2.上位概念に登るため、問答法で議論するときは、まず相手の言ったことを部分的に認め、次に部分否定するのがコツである。
⇒このことは、ブレインストーミング法で、他者のアイデアを批判せず、まず受け入れるという態度と同じです。あるコンサルタントから「訪問した会社では、八つ褒め、二つ叱るように」というアドバイスをもらっていたのですが、あるグループで工場見学に行って、いろいろ指摘していたら、社長と音信不通の状態になりました。上から目線ではなく、まず相手の言うことを傾聴して、なぜそうなのかを理解することが最初の姿勢として相応しいと思った次第です。
3.再発防止報告書では、次のことを勧める。
(1)真の原因、背景と脈絡を書く。
(2)上位概念に登って知識化する。
(3)報告書に言い訳も書く。
⇒綺麗ごとだけを書いた報告書は読んで終わりということになりがちなので、読者に事例を深く理解させ、自分の周りにも同じようなことがありそうだ、手を打とうという気持ちを起こさせる書き方をしてくださいということだと受け取りました。言い訳として、本人の心理面での原因まで書いてあると、身近に感じます。今年だったら「なでしこジャパンを応援して、ついつい深夜までテレビを見てしまったので、睡眠不足になり集中力を欠いていた」もありそうですが、どこまで許容するかは社風によりそうです。
4.マニュアルで失敗を防ぐ方法の弱点として、それに頼りきりになると、なぜそう規定されているか真意が伝わらないし、規定外のことを考えなくなる。そこで、身近な訓練方法として、マニュアル作りゲームに参加することを勧める。
また、文章ばかりのマニュアルは全体像を掴みにくいので、左半分に文章、右半分にカラクリ図(構造図)を描くことを提案する。
⇒その点で、横幅1mもあるマニュアルを従業員からの提案によって常に進化させている、しまむらを思い出しました。ISOのマニュアルでも、従業員にとって役に立つマニュアルにしようとしたら、文章だけで規定するのではなく、フローチャート中心で説明付記ぐらいが丁度よいと考えます。
結論として、普段から、失敗事例だけでなく成功事例も、広くは世の中に起きる現象の原因を、心理面も含め、多面的に掘り下げる訓練を習慣化しておくと、失敗防止だけでなく、創造につながる可能性もあるのではないかと思いました。