24期生の小山俊一です。今年もよろしくお願いいたします!
今日は年末年始に読んだ本の中で特に感銘を受けた、エリン・メイヤーの『異文化理解力(The Culture Map)』についてご紹介したいと思います。
私自身、これまでずっと異文化コミュケーションが必要とされる環境に身を投じて実践してきた自負がありますが、なかなか言語化しにくく説明の難しい文化の違いを本書ではユニークなモデルによって上手く表してくれています。本書にある多数のエピソードと解説を読む過程で、「ああ、そういうことだったのか!」と目からウロコが落ちる感覚が何度もありました。
「The Culture Map」における8軸モデル
エリン・メイヤーは、異文化の違いがどのようにビジネスの現場で影響を及ぼすかを分析し、その特徴を以下の8つの軸でモデル化しています。(括弧内は、例となる代表的な国)
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コミュニケーション(High-context vs Low-context) — 文脈に依存する表現が多い文化( 日本、中国)と、直接的な表現を好む文化(アメリカ、豪州)
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評価/フィードバック(Direct vs Indirect Feedback) — 批判をストレートに伝える文化(ドイツ、ロシア)と、配慮しながら伝える文化(日本、タイ)
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説得の方法(Principles-first vs Applications-first) — 原則から説明を始める文化(ドイツ、フランス)と、具体例から入る文化(アメリカ、日本)
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リーダーシップ(Egalitarian vs Hierarchical) — 平等を重んじる文化(オランダ、豪州)と、上下関係を重視する文化(日本、中国)
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決断(Consensual vs Top-down) — 合意形成を重視する文化(日本、ドイツ)と、リーダーが決断する文化(ロシア、中国)
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信頼(Task-based vs Relationship-based) — 仕事の成果を重視する文化(アメリカ、豪州)と、人間関係を基盤とする文化(インド、中国)
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見解の相違(Confrontational vs Avoids Confrontation) — 対立を受け入れる文化(フランス、ドイツ)と、それを避ける文化(日本、タイ)
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スケジューリング(Linear-time vs Flexible-time) — 時間厳守を重視する文化(ドイツ、日本)と、柔軟性を持つ文化(インド、中国)
このように文化の違いを「見える化」し、それぞれの特徴を理解するための具体的なフレームワークが提供されています。
なお、これらの軸は「0か1か」というものではなく、その中間が無数に存在します。異文化理解においては、各軸における各文化の相対的な位置関係がポイントとなります。
8軸モデルの具体例
例えば、アメリカ、フランス、ドイツ、中国、日本の文化の違いをグラフにプロットすると、以下のごとくとなります。
【出典】エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』
仕事上で関わる場合に重要となる「フィードバック」の目線を取り入れると、具体的には以下のように説明できると思います。
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アメリカ人は、低コンテクスト文化の典型であり、明確で直接的なコミュニケーションを好む。会議では即座に意見を述べ、議論を通じて結論を出すことを重視。フィードバックも率直で、特に成果を強調しながら改善点を具体的に指摘するスタイルが一般的。
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ドイツ人は、論理的で原則を重視するため、詳細な計画や文書化されたプロセスを求める。議論は徹底的に行い、合意形成に時間をかけることを厭わない。フィードバックは具体的かつ建設的で、論理的な根拠を伴って提供される。
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フランス人は、原則から話を始めるのが特徴的で、背景や哲学を説明することに重点を置く。また、会議中の議論は非常に活発で、異なる意見を歓迎する文化がある。フィードバックでは、ポジティブな内容とネガティブな内容を交互に織り交ぜることが一般的。
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中国人は、関係性を重視し、長期的な信頼の構築を基盤とする。コミュニケーションでは間接的な表現が多く、面子を守ることが重要。フィードバックでは直接的な批判を避け、周囲の雰囲気や文脈を読みながら慎重に伝える傾向がある。暗に示された改善点を読み取ることが重要とされる。
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日本人は、高コンテクスト文化の代表例で、暗黙の了解や間接的なコミュニケーションが重視される。合意形成は慎重に進められ、全員の意見を尊重する姿勢が求めらる。フィードバックにおいては遠回しな表現が多く、相手の気持ちや立場に配慮しながら行われる。
私が30年前に大学で学んだ異文化コミュニケーションフレームワークは、「ハイコンテキスト」か「ローコンテキスト」かの2つの分類でした。それはそれで示唆に富んだ分類ではありましたが、その後、異文化の世界に身を置くと、この1軸ではとても説明がつかない局面に多々遭遇してきました。この本の8軸モデルで整理することで、30年越しの「もや」が晴れたような気分になりました。
われわれ中小企業診断士としても、外国人従業員を雇用する企業や海外展開を目指す企業がますます増える中、異文化間の摩擦にどのように対処していくべきか、理論的に説明できる力を持っておく必要があると考えます。このような中、エリン・メイヤーが提示した8軸モデルは理論的に明快であるだけでなく、ビジネスの現場で実践的に活用できる優れたモデルだと思います。
多くの示唆を得られる価値ある一冊だと思いますので、皆さまも機会があれば手に取って読まれてみてはいかがでしょうか?