事務局の大井秀人(20期)です。
今期の勝手連載、「先達・先輩から学んだこと」の第4回です。前回までは新卒で入った化学メーカー時代の話を書きましたが、今回は36歳で転職し約10年間勤めたパナソニックの創業者松下幸之助さんの言葉の中で、私が好きなものについて書きたいと思います。
ちなみに前回のブログはこちら。
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視点のルーツをまとめる(第1回)
新人のときに学んだ基本動作(第2回)
営業は確率論(第3回)
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化学メーカーからITベンチャーを経て入社したパナソニックでは、社内ITカンパニーで開発設計部門の業務改革を担当していました。担当領域はCAD、CAE、PDM――これらの言葉、診断士試験の「運営管理」で聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、これが私の専門分野です。B2Bや白物家電系カンパニーの開発プロセス改革プロジェクトに参画し、現場部門との折衝や新システムの導入を推進してきました。
パナソニックでは、日々の業務の中で創業者・松下幸之助さんの言葉がたびたび引用されるのを目にしました。その言葉が「こうして行こう」という業務の方向付けになることが多かったように思います。私も自分の心の持ちようとして幸之助創業者さんの言葉には勇気づけられていた気がします。その中で3つ挙げたい思います。
1.日に新た
「日に新た」とは、「過去の考え方、これまでのやり方にとらわれることなく、日に新たな観点に立ってものを考え、事をなしていくことがきわめて肝要」というです。常に進歩を目指し、昨日の自分を超える努力を続けることを意味します。その語源は、殷朝の湯王の言葉まで遡ります。志倉さんの「昨日の自分に勝つ」にも少し通じるものがあるかもしれませんね。
システム導入プロジェクトでは複数部門間の調整がうまくいかず滞ることも多いのですが、その際「日に新た」をスローガンに、何か新しいアプローチがないかを日々模索していたように思います。その結果、毎日少しずつ前進し、最終的にプロジェクトを完了することができていたのではないかと感じています。
2.衆知を集める
「衆知を集める」とは、全社員が主体的に経営に参加し、多様な知恵を結集することを意味します。上司は部下の意見を尊重し多様性を活かして創意工夫を引き出す支援を行い、部下も積極的に提案し上下関係を越えた議論を通じて課題を共有する風土を目指すこと、今どきの言葉でいうとダイバーシティの推進といえそうです。似た言葉に「三人寄れば文殊の知恵」がありますが、それをさらに進化させた考え方と言えるかもしれません。
IT部門はどうしても調整役としての位置づけとなることが多いのですが、、短期で具体的な合意形成できるセッションを「衆知を集める」という名のもとによくしていました。おかげで「衆知集めたいんです!」と突然の会議設定がしやすかったです。ただ、この言葉のせいでむやみに会議を設定されることもあり、「衆知の集め過ぎ」には注意しないといけません。
3.三行報告(産業報国)
パナソニックには七精神という経営の基本方針があります。その1つ目の「産業報国の精神」は、企業の使命として社会や産業への貢献を重視する考え方です。そこから派生で「三行報告の精神」として、簡潔な報告をするよう促されていました。要点を整理することで相手(特に幹部層)に無駄な時間をとらせないようにし、意思決定を速めるのが狙いです。
社内のプレゼン資料は、1つのスライドに三行のキーメッセージがあり、その内容を説明する図があるという形態がほとんどでした。巨大組織の中で認識がバラけないように進めるための工夫にもなっていたと思います。私もこのおかげで、常に3つのポイントでまとめる習慣がついたと思います。そういえば、稼プロ!も書く講義で、奇数(3つか5つ)で論点を整理することを勧めていましたね。
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ご存知のとおり松下幸之助さんは多くの著書を残していて、経営理念の大切さを説いておられました。私も10冊以上持っています。特に大きな事業体であるパナソニックの場合、理念が言語化されているからこそ、多くの人が目標について共通認識を持ち、一丸となって行動できるようになっていたと思います。
ただ創業者が偉大過ぎるがゆえに、他の考え方や新しいアプローチが受け入れられにくい社風もあるのかな、と感じることもありました。過去の成功体験や創業者の言葉が絶対視されるようなところが、失われた30年の時代で柔軟な対応が遅れた要因の1つな気がしてなりません。それでも、理念そのものは普遍的です。偉大な教えを礎としながら時代に応じた解釈を行い、時代の変化に即した変革を続けていくことが重要と感じています。
次回は、引き続きパナソニックでのプロジェクトで感じたことについてお伝えします。