あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

都美術館で「ボッティチェリ展」をみて

2016-03-11 11:00:08 | Weblog


茫洋物見遊山記第198回



 イタリア・ルネサンスの「至高の美」!(本展のキャッチフレーズずら)が20点以上もやってくるというので雨の都美術館へやってまいりました。ここは国立と違って65歳以上のロートルは1000円で入場できるので助かります。

 ボッティチェリといえば、昔フィレンツエのウフィツィ美術館の入り口の狭い狭い部屋の中で「ビーナスの戴冠」と「春」に出会って、こんな夢のように美しい絵がこの世の中にあるのかと仰天し、誰一人観客がこないのを幸い、長い間鑑賞、というより途方もない夢に浸っていたことがありました。

 今回その垂涎の的の名品が来日しなかったのはまことに残念でしたが、群青色が目にしみる端正な「書物の聖母」とか「ラーマ家の東方三博士の礼拝」とか「アペレスの誹謗」など、彼の代表的な作品を数多く鑑賞することができて仕合わせでした。

 その中で特に楽しめたのは、ぬあんと本邦の商社丸紅が所有している「美しきシモネッタ」です。

 当時のフィレンツエ随一の美人を右の横顔から切り取ったこのテンペラ画は、その隣に並んだ左の横顔の美人像と好一対を成す素晴らしい肖像画で、モデルの美貌もさることながら、背景のそら色と織りなすパステルカラーのグラデーションが圧倒的に美しい。

 美女の毛のブロンドや着物の赤、茶といった効き色を浮きだすために、バックには様々な彩度の渋い灰色を、窓枠に切り取られた空の色(一方は朝の空、他方は夕べの色!)に使っているのですが、考え抜かれた色彩設計に限りなく魅了され、時の経つのも忘れるほどでしたなあ。

「ビーナスの戴冠」や「春」の華麗な色彩の饗宴とは異なったボッティチェリの知られざる美と出会うことができた展覧会でした。


 「お母さん今日は車で迎えに来てくださいね」5年前の記憶生々し施設の息子 蝶人
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