ある晴れた日に 第366回
ある日、東映から健さんがやって来た。
なんちゃら組の親分役として、わが社の営業を手伝ってくれるというので、感激した私は一本の包丁を買って来て、「♪包丁いっぽおん、さらしにまいてえ」とア・カペラで歌いながら、東映映画で観たとおりに晒しに巻いて、背広の中に忍ばせた。
その翌日、社員全員で地方へ出張に行ったら、健さんが誰かと喧嘩になったので、すっ飛んで行って、そいつの猪八戒腹を正宗の包丁でブスリとやったら、社長が「よくやった。これで邪魔者は消えたから、この地区の売り上げは倍増だあ」と大喜びした。
その翌々日、私が奥菜恵似の女子と仲良くしているの知った吉高由里子似の女が、「デートしよ」と私を誘ったので動物園に行ったら、猿どもが白昼公然と自瀆しまくっていたので「こんなお下劣な所はやめて、もっと静かな場所へ行こう」と二人でラブホへ行った。
その日の夕方、外で涼んでいると、誰かが庭から勝手に家の中に入ってくるので、
「なんだ、なんだ、おめえは誰だ?」と誰何すると、
「僕ちゃんは、あなたと同姓同名なので、ここへやってきました」という。
そいつは、よれよれのまっ黒けの服を着た全身濡れネズミ男だった。
濡れネズミ男こと佐々木眞は、平壌放送のような予告なしにいきなり歌い始めた。
「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのノウリはまっ黒け」
すると、その後から大勢の子どもたちが、
「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのゾウリはまっ黒け」
と楽しそうに歌いながら練り歩いていく。
「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのゾウリはまっ黒け」
「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのゾウリはまっ黒け」
共に歌い踊りつつ、私は世界全体の底が抜けたようで、なにもかもが楽しくなってきた。
急に全身雲南桜草になった私は、春風に吹かれながら、全身ネズミ男たちのあとを追った。
目黒区上目黒にあるギャラリーを出て、夜の盛り場を彷徨っていると、ベネチアのカーニヴァルで見た顔を白く塗った女たちが、長い列を作って私を待ち構えている。
その真ん中を通って、大名時計博物館の竹林に入ると真っ暗な部屋があった。
中では二人の若者が、「さあいよいよ戦争だ。これで思う存分南京で人殺しができるぞお!」
と期待に胸を膨らませながら、陛下恩賜の三八銃をピカピカに磨いていた。
三時になったので、いったい誰がお茶を入れるのだろうとハラハラしながら見守っていたら、竹取の翁がかぐや姫に命じてしずしずと茶碗を運ばせたので胸をなでおろした途端、
突然、地面が大きく揺れて亀裂が生じ、二人はそのまま地底深く呑みこまれてしまった。
「おおい、誰かいないか?」と尋ねたが、ついに返事はなかった。
賛成でもかといって反対でもなくどちらでもない多くの人々 蝶人