あまでうす日記

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鏑木清方記念美術館で「女性美と自然美」展をみて

2017-05-04 10:03:15 | Weblog


蝶人物見遊山記 第238回&鎌倉ちょっと不思議な物語第378回


小町通りの奥まった一角にひっそりと佇む鏑木清方旧邸跡では没後45年を記念して「神奈川とのゆかり」コレクションが珍しい初公開品も含めて狭いながらもバラエティ豊かに展示されています。

私がここに通うのは、彼独自のビリジアンカラーの美しさを堪能するためですが、今回戦後初めて公開された「五十鈴川」という個人蔵の絹本着色の軸物には恐れ入りました。

これは1943年から44年に制作され、お伊勢参りにやって来た2人の若い女性が、昔からのしきたりに従って、五十鈴川のほとりに端坐して両手を清めているという、どうということもない、いつもの美人画ですが、驚いたことに、これは大政翼賛会主催の「戦艦に寄贈する絵画展」に出品された、いわゆるひとつの戦争画なのです。

確かに伊勢神宮、五十鈴川というシチュエーションは、当時猛威を振るっていた国家主義、日本主義に迎合協賛しているとはいえ、1億玉砕の総力戦のただ中にあって、これほどのどかな浮世離れした美人画を平然と描きあげ、戦艦の1室で飾ってもらおうとする画家は、清方以外はいなかったのではないでしょうか。

戦時の流れをすべて遮断した時空を仮構することによって、人工的な極楽と永遠の平和を出現させた、このあくまでも優美で典雅な絵は、同時代に「細雪」を書いた谷崎潤一郎と同じような意味合いの、反時代的反戦作品と言うても過言ではないでしょう。

なお同展は来る5月24日までひそりと開催ちう。


       心臓の痛みに耐えて五月哉 蝶人

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