蝶人物見遊山記第244回&鎌倉ちょっと不思議な物語第384回
漱石が生涯に出した手紙は全集に収録されているだけで2500通を超えるそうだが、文学者でこれくらいたくさん手紙を書いて、これくらいたくさん保存されている人は、そうはいないのではないだろうか。
彼は自分あての手紙は、引っ越すするたびに処分していたそうだが、なにせ有名人だしその内容が面白いから、出した手紙の多くが、保存されたのではないだろうか。
会場のパネルによると最近400通もの新しい手紙が出てきたというが、ぜひ岩波から発行中の新全集に収録して欲しいものである。
されど会場に並んでいるのは、そのほんの一部に過ぎず、漱石特有の細文字で綴られている。倫敦から妻や子規に宛てた葉書等は、ポンド高を節約するために、なおさら超細で書かれているので、いくら眼を近づけても殆ど判読できないのは残念だった。
興味深いのは、「「明暗」は清子の生態をうわっつらしか表現していない。もっと女性心理を深く抉れ」と書き寄越した読書家に対する漱石の返事で、「女性心理の深奥を知らないわけではないが、そういう女性にしても、そうでない普通の女性と同様の、浅薄な生き方を選んでしまうことが多々あり、「明暗」ではあえてそれを書いている」と答えている。
もう1枚は漱石の娘の栄子に宛てためんどりの絵ハガキで、うろおぼえであるが、「栄子さんにわとりのたまごをとってにてたべてください」と書いてありました。
なお本展は来る7月9日まで同館にて開催中。6月4日までは庭園にて「バラまつり」も。
珍しき金魚葉椿を見つけたり五月の長谷の収玄寺にて 蝶人