蝶人物見遊山記第242回
頂戴した上等席で、夜の部の通し狂言「南総里見八犬伝」を見物しましたが、お目当ての片岡愛之助以下松嶋屋、成駒屋、大和屋、萬屋の若手中堅どころが昼夜にわたって獅子奮迅の大活躍でした。
初めて耳にした愛之助の身のこなしに風情と艶はありませんが、藤十郎、幸四郎、吉右衛門と違って中音の発声に芯があって、声量も豊かなので安心しました。狂言も文楽も声が一番大事です。
曲亭馬琴原作の「南総里見八犬伝」は、見どころ満載のスペクタキュラーな快作で、役者連は疲れも見せずに奮闘し、見ごたえがありました。
けれどもお芝居は、演者と見者双方が協同作業で作り上げるものなので、どちらかが弱いと残念な結果に終わってしまいます。生憎この日は頼みの大向こうが一人か二人しかおらず、ここぞというところで盛り上がりに欠ける。サクラでもいいから、あちこちから声が掛からないと、役者も気持ちが燃え上がらないものです。
今回の脚本&演出は今井豊茂、制作は松竹でしたが、総合的な完成度と迫力は、1昨年の1月に渥美清太郎の脚色、尾上菊五郎の監修で半蔵門で興行された公演に一籌を輸すものでした。
それにしてもこの節の歌舞伎は、やたら見得を切りすぎる。あんなにしつこくやると却って芝居の興を削ぐように思うのは私だけでしょうか。
蛇足ながら、いかに人気商売とは云え、昼の部の「月形半平太」と「三人連獅子」を終えてからの4時間興行は、ちと過酷に過ぎるスケジュールではないでしょうか。
なお本公演は、東京浜町明治座にて明日27日まで上演中。
化け猫に秘剣に光る八つの玉「南総里見八犬伝」こそ究極の活劇 蝶人