あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

中央公論社版・山田𣝣訳「フローベール」を読んで

2020-12-14 14:43:45 | Weblog

照る日曇る日第1516回

「ボヴァリー夫人」、「三つの物語」、「紋切型辞典(抄)」を収めた1994年の古い書物ずら。
フローベールは大革命の後、仏蘭西のブルジョワジーが興隆した7月王政時代(1830-48)の「地方風俗」を描こうとして、自足した田舎医者シャルル・ボヴァリーと欲求不満の塊のようなその妻エンマを主人公に据えた。
修道院の戒律の中で乙女の夢想に耽っていたエンマは、実社会に出て長じるにつれ肉欲とエアランヴィタールに駆られて、夫以外の2人の男性を愛する訳だが、フローベールは恋にも暮らしにも完全に行き詰ったエンマが、砒素を呑んで死ぬまでの道行を、従来の浪漫主義を排したクールな写実の筆で細大漏らさず記した。
作者は「ボヴァリーは私だ」と豪語したようだが、おのれの自由と欲望をその破綻の限界まで行きつくす近代人の内面は、確かにエンマの姿を借りたフローベール自身のものでもあったろう。
さはさりながら、男性の作者が檻の中で必死に藻掻く女の情理の総てを描破できたはずはずがないことは、この作品を読んだ女性には解されるだろう。
「素朴な女」、「聖ジュリヤン伝」、「ヘロデヤ」の短編をあつめた「三つの物語」では聖書でお馴染みの預言者ヨハネやサロメが登場する3番目の作品が面白く、到底紋切型とはいえない「紋切型辞典(抄)」も才気横溢の興味深い読み物である。

 おらっちが大切にしていたリンドウをちょん切りやがって阿呆馬鹿ウスイ 蝶人
コメント
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