照る日曇る日第1524回
現在朝日新聞で連載中のこの小説の主人公は、基督者であって天文、地理の専門家を目指す海軍の軍人であるが、その136回で有名な「戦艦バウンティ号の叛乱」が出てきたので興味を持った。
映画でも描かれているようにイギリスの戦艦バウンティ号のブライ艦長は陰険かつ吝嗇な無頼漢で、艦内の貴重な食料を横流しして私腹を肥やし、あまつさえ部下に冷酷無慈悲で、些細なことで過酷な鞭打ちの刑に処したのである。
艦内で鬱積した不平と不満は、艦が南太平洋のタヒチを出港した折に爆発し、全権を掌握した信望篤い航海長のクリスチャンは、全乗組員44名のうちブライ艦長以下19名を大きなボートに乗せて海に放ち、8人の仲間と18人のタヒチ人と共に後にピトケアンという名で知られる絶海の孤島に逃れた。
7メートルのボートで41日間かけて蘭印のチモール島に着いたブライ艦長は、帰国すると「戦艦パンドラ号」でタヒチに戻り、連れ帰った反徒の3人が絞首刑に処せられた。
1935年の映画に描かれてるのはそこまでなので、無人島へ行った彼らが、その後どうなったかを知りたかった。ところが池澤選手のこの小説には、それが出てきたので、私はコロナに罹ったよりも驚いたのである。
小説によれば、映画の終わりから20年以上の歳月が過ぎ、たまたまこの無人島に立ち寄った船が、たった一人の男、水兵のジョン・アダムスと女10人、子供23人を見つけたそうだ。そうしてジョン・アダムス以外の英国の水兵は、タヒチの男たちと争って殺し合い、みな死んだという。
作者池澤夏樹は「ジョン・アダムスは1冊の聖書を頼りに信仰を保って暮らし、女たちを統率していた。この状態はどちらかというと旧約的ではないだろうか」というのであるが、あるいはそうかもしれない。
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「おや喉がイガイガしてきて咳が出る」「新型コロナに感染したかも」 蝶人